雨天決行

青ゐ秕

雨天決行

雨天決行


僕らは雨の日だって手を繋いで歩いていた。

いつからか手を繋がなくなって別々の傘をさして歩いた。


狭い部屋の中。


外は土砂降りの雨。


冷めた珈琲は酸化を続ける。


別れを告げたのは僕からだった。

一緒にいることはもうできないと思ったからだ。

彼女もきっと手を繋がなくなった頃には同じことを思っていたのだろう。

彼女は何も言わずただ頷いた。


僕らは煙草が嫌いだった。

夜遅くに帰ってくる彼女が煙草の匂いを纏うようになったのはいつからだっただろうか。


僕にはない何か、僕が与えることのできなかった何かを、誰かで補っていたのかもしれない。


別れてから以前とは打って変わって静かな部屋の中僕らはまだ一緒に暮らしていた。

彼女の部屋が決まるまでの間、会話だけは今までと変わらず。

その温度だけが失われていった。


ある晩に彼女が僕の背中で泣いた。

ごめんね、ごめんね。

彼女は繰り返した。


僕の方こそごめん。

その言葉を口にできないまま僕らは言葉にならないさよならを交わし合った。


僕は煙草を吸い始めた。

何となく名前で選んだ銘柄だった。


あの穏やかだった日々にさよならを言えないまま夏が来た。

最近になってやっと彼女が抱えていた苦しみだとか悩みだとか葛藤をほんの少し理解することができた。


ある晩、彼女に電話をかけた。

あの時思っていたことや彼女が思っていただろうことを話した。

ごめんね。

そういうと涙が溢れた。

ごめん、ごめんね。

涙は止まらずに言おうとした言葉が流れてはまたあふれ、そしてまた流れていった。


ごめんね。


これで本当にお終いだ。


電話を切るときに彼女はまたねと言った。

僕はバイバイと言って電話を切った。

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雨天決行 青ゐ秕 @blue_summer

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