梅雨の公園の東屋で
桜庭ミオ
第一話 再会
高校が終わり、電車に揺られる。
線路沿いには青々とした草木と、青紫色の紫陽花。
灰色の雲の下、絹糸のような雨が降り、電車の窓を濡らす。
電車の窓に雨が当たると雫ができて、涙みたいに流れ落ちる。静かに、それを眺めているだけでも、心が洗われていく気がする。
だけど、もっと癒されたくて、あの場所に行きたくなった。私にとっての聖域に。
無人駅に電車が着く。緑色のリュックを背負い、紺色の傘を差して、公園がある方に向かって歩き出す。
傘に当たる雨の音。しっとりとした風を肌で感じる。この感覚も、植物と泥が混ざったみたいな匂いも好きだ。
変わってるねって、昔から言われる。女子に。
どうして? って聞いてみたら、普通じゃないとか、ふしぎだからって言われたりする。
何を考えてるのかわからないとか、人形みたいだとか。黙ってると顔がこわくて、怒ってるみたいだとか、言われたこともある。
私って、そんなにみんなと違うのだろうか。無表情なのだろうか。
私だって不安な時があるし、緊張だってする。
人前で泣きそうになることだってある。そういう時はできるだけすぐにその場を離れて、一人になるようにしてるから、無感情な人に見えるのかもしれない。
泣いてる姿を見られるのは苦手だ。女子に心配されると、逃げ出したくなる。
学校の女子達みたいに、手を叩いて笑ったりはしないけど、これでも笑うことはある。
怒りを感じることはあまりない。
もし、怒りを感じたとしても、それを誰かにぶつけるようなことはしないと決めている。傷つけたくないからだ。
橋を渡って少し進むと公園が見えた。久しぶりに公園の土を踏む。ブランコと滑り台とジャングルジムが、やわらかな雨に打たれてる。
水たまりを避けながら進むと、緑が多くなった。花も。
ここに来ると深く息ができるような気がする。
梅雨の匂いに抱かれながら歩いていると、色とりどりの紫陽花に囲まれるように建つ、東屋が見えた。
青い屋根の東屋に、学生服姿の男の子。
中学校の制服じゃないから、高校だろうか。
どこの高校の制服だとか、そういうの、詳しくないからわからないけど。
リュックを背負い、立ったまま読書をしているようで、私には気づかない。
どうして立っているんだろう?
昨夜から朝まで雨風が激しかったから、ベンチが濡れているのかな?
気になって見ていると、男の子が顔を上げてこっちを向いた。目が合う。
あれ? 知ってる顔だ。
人のことはさん付けで呼ぶようにしてるのだけど、彼のことは幼稚園の時から蓮君と呼んでいる。
彼に名前で呼んでほしいとお願いされたからだ。
他の子もみんな蓮君と呼んでたから、私だけではない。
蓮君とは、幼稚園と小中学校が一緒だった。小学生の時に同じ習い事――習字をしてたし、話したことはたくさんある。
彼は、こんな私にも普通に話しかけてくれる、とてもふしぎな人だ。
「
嬉しそうな顔の蓮君に名前を呼ばれて、ドキッとする。顔が熱い。緊張してきた。
「蓮君……」
「久しぶり。こっちおいでよ」
「えっ? うん、わかった」
戸惑いながら足を進める。
どうしよう。恥ずかしい。三月に中学校を卒業してから会わなかったし、その制服姿、初めて見たし、背が高くなってる気がする。
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