天井

松井みのり

天井

 目に焼きつく優しいクリーム色の天井に向かって、肩から力をこめてうんと腕を伸ばしてみる。伸ばしきったわたしの腕と手が、視界の何割かを覆う。天井は少しだけ隠れて見えなくなるが、伸ばし切った腕の先に天井が存在することを、既にわたしは知っている。隠れて見えなくなったから、天井の存在は大きく膨らみ続ける。爪の先までグッと力を入れて、腕をどれだけ伸ばし続けても、天井は、何も許してくれない。しばらくそうしている内に、肩が痛みを感じていることに、脳は気がついてしまう。脳は肩に向かって休息をとるように指示を出す。すると、肩と腕は重力に従ってしまう。手も同様に力が抜けて、指はふんわりと折り畳まれる。そうして、肩と腕と指とが脳の指示に従い休息をとった時、天井の存在はもう一段階大きくなる。そのことを知っているのは、無残にもわたしだけである。目に大きな天井を焼きつける。わたしは大きくなり続ける天井を知っている。

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天井 松井みのり @mnr_matsui

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