第5話

 激情に任せてベルフォンドを魔弾(マジック・バレット)で抹殺した。


 少し冷静になって、しまった! と思う。


「い、今の、アンタが撃ったの……!?」


 見られた。

 完全に見られてしまった。

 自分が強いという事は、誰にも知られてはいけないのに。

 結構有名な冒険者であろう奴に知られてしまった。


 ぐぬぬ……

 こんな時、記憶を消す魔法でもあればいいんだが。

 そんな都合のいい物はなかった。

 まさか、殺すわけにもいかんし……


 どうしようか。


 全力で脅してみるか?


「おい、このことはほかの誰にも……」


 と目つきを凄ませたが、エミルには全く効果がなかった。俺の肩を掴んできて、


「ア、アンタもしかして一般人じゃなくて、冒険者!? しかも相当高位の!?」


 そう聞いてきた。


「違う。一般人だ」

「そうなの? じゃあ、なんでそんなに強いのよ!」

「何でと言われてもな」


 神様に、レベルを9999に上げられたとか言っても、分からないだろう。

 この世界にレベルという概念は、神しか知らないみたいだからな。


「とにかく俺が倒したということは、黙っていてくれ。あいつはお前が倒したことにしていい」

「な……そんなことできるわけないじゃない!」

「なぜだ。手柄になるぞ」

「人の手柄を横取りする気はないって言ってるの! あなた冒険者になりなさいよ!」

「ごめんだ。俺は自分が強いと他人に知られたくないんだ」

「な、何でよ」

「何ででもだ」


 理由を説明しても、この女には理解できまい。


「何か事情がありそうね。まあ、私は人の隠し事を言いふらすほど、性格は悪くないわ」


 嘘をついているような感じではない。というより、嘘を付けるほど、器用な性格はしていなさそうだと、先程の戦いを見え思った。


 多分本当に話す気はないのだろう。


 何事もなく綺麗に収まりそうだと、安心していたら、エミルが問題発言をしてきた。


「だけど、あなたの強さの秘密は調べさせてもらうわ」

「は?」


 調べてどうしようというのか。

 発言の意図が俺には掴めなかった。


「私の目標は……そう、世界最強‼︎」


 エミルは、拳を天に向かって突き出しながら、頭の悪そうな発言をしてきた。


「人間、魔物問わず全ての者の中で、最強になることよ! あいつを一撃で倒した、あなたは悔しいけど、私より強いわ。ならば、その強者、強さの秘訣を盗み、自分の者にして越えるまでよ‼︎」


 いや、秘訣って……

 そんなもんないし。転生して、チートを神様から貰っただけだし。


 最強に関する情熱がすごいのは理解したが、俺から盗めるものなんてない。


 何とか理解できるように説明して、納得させたいが、コミュ力の低い俺は上手い説明の仕方が、すぐ頭に浮かんでこなかった。


「私はエミル・トール! あなたは」

「ライズ・プライスだけど……」

「ではライズ! あなたの強さの秘密、盗んでやるから、覚悟してなさい!」


 と宣言して、走り去っていった。


 あれ? 暴いてやるとか言いながら、走っていったぞ? どういうことだ?


 まあ、どっかいくならその方がいいんだけど。


 だが、なんかめっちゃ嫌な予感がする。


 ……気のせいと信じて、釣りを再開しよう。


 その日、釣りを再開したが結局大物は釣ることはできず、ベルフォンドへの苛立ちを深めて、釣りをやめた。


 この日の夜は魚料理ではなく、肉料理を食べた。


 魚釣りばかりをやっている俺だが、魚だけ食べて生きているわけではない。


 たまに空に飛んできた鳥を撃ち落としあり、釣り餌の作りに近くの森に入ったついでに、猪や鹿などの動物を狩ったりして、さまざま食材を手に入れている。


 保存魔法があるので、腐ることはない。


 数ヶ月前に狩ったやつが、まだ残っていた。


 実は腐っていても食べられるんだがな。


 レベルが9999になっただけでなく、毒とか病気に対する耐性が、最大になっている。


 腐敗したものを食べても、不味いと思うだけで、体調面に異変は生じない。


 だからといって不味いものは不味いので、腐っているものは気付かず食べた時以外は、食べることなどない。


 食事を終えた後、俺は眠りについた。



 ○



 翌日。


 日差しを浴びて俺は目覚めた。


 いつも通り朝食を取り、釣りに行く準備を終えて、外に出る。


「あ?」


 俺の家の横に見慣れぬテントが設営してあった。


 こんなもの作った覚えはない。


 物凄く嫌な予感を感じて、俺はテントの中を見てみる。


 中には昨日出会った、エミル・トールがいた。


 問題は着替え中だったという点だ。

 半裸で、今まさにパンツを脱ごうとしているその時に、俺は突入してしまった。


 豊かな乳房と、先にあるピンクの突起をもろに見てしまう。


 女の体を見慣れていない俺は、凍りついたように動けなくなった。


 こ、こいつめちゃくちゃ胸大きいな。しかも、すげー美乳だ。


 エミルも状況が全く理解できていないようで、俺を見てピッタリと固まっている。


 数秒間、沈黙がその場を支配した。



 状況を理解した、エミルの顔が徐々に赤く染まっていき、


「へ、変態!!」


 と大声で叫んでビリビリと放電した。


 常人が食らったら、電気ショックで死にそうなくらいの、大規模な放電だったが、俺には一切ダメージは入らなかった。


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