第10話

 マガミの神域から出た翌日。

 私とライルは、カリラの街へと来ていた。

 

 目的はギルド。

 ついに、私とライルでパーティを結成する日が来た。

 

 ……と、いうのは建前で。

 

「なあ! ナギ、あれなんだ!?」

「あれはパン屋です。帰りに寄りましょうか」

 

「あれは!?」

「武具屋さんですね。出発前にお邪魔しますよ」

 

「じゃあ、あれは?!」

「病院ですね 」

「それはいいや」

「ダメですよ?」

 

 今日はライルの街デビューだったりする。

 

 

 

 ライルを拾ったのは1ヶ月前だが、今まで街に出したことはなかった。

 それは純粋にライルの怪我が酷かったのもあるし、ライルが怖がったのだ。

 

 元々、ライルは奴隷だった。

 他人を怖がるのも仕方ないし、まだ彼を狙う奴隷商が辺りをうろついている可能性もあったから、今まで無理強いもしなかったのだ。

 

 だが、これからは冒険者としてライルも外の世界へと旅立つのだ。

 ギルドへの登録もしなければいけないし……と連れ出してみたら、これだ。

 

 まるでお母さんと初めてのショッピングモールへやって来てはしゃぐ子供そのもの。はい、可愛い。

 こんなに喜んでくれるなら、もっと早くに街デビューしても良かったかもしれないなぁ。

 

 なんて呑気に考えていると、ライルに顔を覗きこまれた。

 

「……なあ。ナギの家のある、あの山は神域なんだろ?」

「ええ、らしいですね」

「で、マガミのいたとこは聖域?」

「らしいですね」

「……差ってなんだ??」

「さあ? 私にもよく分かってません」

「えええ」

 

 嘘だろ、という顔を向けるライルだが、わかんないものは仕方ない。

 そもそも『神域』やら『聖域』やらは数が少ないんだ。

 その分、研究や世間の定説というものも確率していない。

 

 私に分かることは、この山が『加護持ちしか入れない山』であり、師匠曰く『神域』だということ。

 そして、マガミの住まう空間がこちらとは別の次元に存在する『聖域』だと師匠が言っていた、ということ。

 

 そう説明すると、ライルはものすごく怪訝そうな顔をして。

 

「………ナギの師匠って何者だよ」

 

 と、呟いた。

 

「さあ? ただの凄腕の『調合師』で、お酒と女と金にだらしないクソじじ──おじいさんですよ」 

 

 あのたぬきじじ……おじいさんにはそれくらいの認識で十分です。

 色々と物知りだけど、相当なお年だったし、年の功というものだろう。

 

「まあ、師匠の事なんてどうでもいいんです」

「言い方がひでえ」

「今どこをほっつき歩いてるのかも分かりませんし、気にするだけ無駄ですよ。ほら、着きましたよ」

 

 ──ここがギルドです。

 

 さあ、目指せ『私の考える最強のパーティ』への第一歩である。

 

 

 ***

 

 

「はい、ライルさんの登録と、ナギさんとのパーティ結成。どちらも終わりましたよぉ〜♡」

「ありがとうございます、リースさん」

 

 ぱむ! と目の前で手を打つリースさんに、ニコリと笑ってお礼を一言。

 ライルもぺこりと頭を下げた。

 

「いいえ、お仕事ですもの。お気にならさず〜。……それはそうと、ナギさんってば、またいい男連れてきましたねぇ」

「ふふ、そうでしょう。自慢のパートナーですよ」

「ええ、ほんと……食べちゃいたいくらい」

 

 ペロリと舌なめずりをするリースさんはえっちだ。

 すう、っとまつ毛ばっさばさの水色の大きなお目目が細まり、浮かべる微笑みは大変えっちだ。

 うちの子にはまだ早いです!!

 

 赤くなっちゃったライルの足を踏んだり、慌てるライルをお気に召したリースさんが「可愛い〜♡」と腕に抱きついたり。

 それでまたライルが真っ赤になって固まっちゃったり。

 わちゃわちゃと賑やかになったギルドの受付カウンターだが。

 

 ──ピロンッ

 

 開きっぱなしだったパーティ結成画面から聞こえた軽やかな音に、全員の動きが止まった。

 

 これは……

 

「パーティ加入希望の申し入れ?」

 

 ……いや、早くない?

 結成して5分も経ってませんが??

 そう、皆で画面を覗き込んで、見えた名前に思わず笑ってしまった。

 笑ったのは私だけで、ライルとリースさんはぎょっとして固まってしまったけれど、無理もない。

 

「ははっ、相変わらずだなぁ」

「えっ、えっ?! ナギさん、この方って……!?」

 

 相も変わらず、彼女はタイミングが良い。

 カウトしに行こうと考えていた人物からの連絡に、私の機嫌はうなぎ登りだ。

 

「ライル、次の仲間が見つかりましたよ」

「は!? 次の仲間……って、コレが!?」

 

 

 私たちのパーティに申請をした女性。

 

 その名をティアナ・クライマー。

 職業『精霊女王』。

 

 

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地味という理由で勇者パーティを追放されたので、私の考える最強パーティを結成して追い抜いてやろうと思います。 こゆき @koyuki_231

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