2章 レベ上げとパーティ結成

第6話

 さて、育成、もといレベ上げを始めるに当たって色々と用意が必要だ。

 主に私が作るポーションとか薬とかの準備なんだけど。

 

「こっちは『完全回復ポーション』の材料、こっちは『魔力回復薬』。『体力回復薬』『傷薬』『止血剤』……。ギルドにでも卸すのか?」

「いえ、それはうちで使うんですよ」

 

 材料、集めてきて貰えますか?

 とライルへ頼めば、小首を傾げて不思議がられる。その度に頭上のフサフサがふりふりとして何とも魅惑的だ。なるほどこれはかわいいがすぎるな。

 許しはしないし許容もしないが、奴隷として売買されるのは少し分かる。それほどに、希少種が持つ魅力というものは凄まじまいのだ。

 

 ちなみに、本人のプライバシーに関するので、他人に言うつもりはないが……勇者パーティのラウラも元『奴隷』だ。

 妖精の森で運悪く捕まり、奴隷商に捕まっていた所を勇者に助けられた。そのときから勇者にベタ惚れで、私の次の古株メンバーとなる。

 

 作ったポーションを、てっきり売って旅の資金にするのかと思った、というライルに「後で分かるから」と追い出し、とっとと材料を集めて貰う。

 なるべく早く君を育て上げて、他のメンバーを探したいんだ。頑張って貰わないと困る。

 それに、何人か誘いたい人ももういたりする。元気にしてるかな、あの人達。

 

「さて、と。今ある分のは作っちゃうか」

 

 ライルの帰りを待ちつつ、私はポーション作りへと思考を切り替えた。

 

 

 ***

 

 

 翌日、早朝。

 私とライルは、森の奥深くへと足を運んでいた。

 いつも薬草や魔物を狩っているような場所とは違う。木が鬱蒼と生い茂り、重厚感が満ちたその場所。ここは、ライルにも普段は立ち入らないようにと告げている場所だ。

 初めて来るライルは、しきりに耳をピクピクと動かし、辺りを警戒しているようだった。

 

 ──うん、勘はいいね。いい事だ。

 

「……なあ、本当に俺を『勇者』にするつもりか?」

「ええ、もちろん。……ライルが嫌なら、止めますが」

「やなわけない。強くなれるなら、それが1番いい。……けど、よ」

 

 そう軽く俯くライルの左手は、右手の手首をさすっている。そこは、今はない『奴隷』が付けられる、魔力封じの手枷が嵌められていた場所だ。

 ……多分、本人は無意識なんだろうなぁ。

 

 ライルの考えも、仕方ないと思う。ヒトというものは、周りからの評価に同調してしまうものだ。

 学校や会社……家とかで考えるとわかりやすいかな。

 周りからずっと「お前はダメなやつだ」「あんたってホント不細工よね」と言われ続けてたら、自然と「自分はそうなんだ」と思い込んでしまうものでしょう? 本当はそんなことないのに、「○○って面白いやつだよな〜」と言われ続けてたら、おちゃらけキャラを演じ続けることになっちゃってたり。

 人はそれをレッテル貼りとも言う。実にくだらないけど、その話はひとまず置いておこう。

 

 つまりはまあ、長年『奴隷』として扱われてきたライルの自己肯定感は低いんだ。

 ……『勇者』として崇めたてられてた勇者が、天狗になっちゃったのも同じ仕組みだね。

 

 どれだけ根っこが真面目でも、いい子でも。周りの『レッテル』や『思い込み』から逃げるのは難しい。

 特に、若ければ若いほど。

 ……失うものが大きければ、大きいほど。

 

「大丈夫ですよ、ライル」

 

 そして、その『レッテル』を引っぺがすのも、周りの大人の役目だろう。

 

「君は、『ここ』に立つ権利があるのですから」

 

 その言葉に、ライルがはたと足を止める。

 

 

 ──そこは、今まで歩いてきた鬱蒼とした山とは打って変わった、静かな湖のほとりだった。

 

 

 濃く漂っていた魔物の気配は塵と消え。

 深く生い茂る木々によって薄暗かった視界は、広く明るい。

 いつの間にか周りには、微かに靄がかかっている。

 

「──っ!? ナギ! 俺の後ろに──」

『久しいな、ナギよ』

 

 異変に気づき、私を庇おうとしたライルだが、少し遅い。

 パキリと足元の小枝が折れる軽い音がして、それとほぼ同時に懐かしい声が降り注ぐ。

 

 会うのは久しぶりだ。

 

「お久しぶりです。──マガミ」

 

 いつの間にか湖のほとりに佇んでいたのは、白銀の豊かな毛をもつ、巨大な狼だった。

 

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