第3話

「分かりました。パーティから抜けさせて貰います」

「お前がそんなことを言っても──え?あ、……いいのか?」

「ええ、別に。未練もありませんし」


おい、何故悲しそうな顔をする、勇者。


……そういえば、この子は昔から乗せられやすい子だった。

もしかしたら今回の件も、後ろの3人にそそのかされたのかもしれないな。なんだかんだ言って、『姉』として懐いてくれてはいたから。


『ナギは、姉さんみたいだ』

『見ててくれよ、俺、ナギに恥じないような勇者になるからな!』


……記憶にある勇者も、まだ消えてはいないのかもしれない。

そんなことを考えてしまう自分に嫌気がさす。私は身内に甘いんだ。

そして、そんな私が『この世界』で身内認定している数少ない人間のうちの一人が──勇者だった。


が。


「ほ、ほんとに抜けるのか……?」

「ええ、抜けます。勇者がそうしろって言ったんですよね?」


私、可愛い子には崖から突き落としてさらにそこに岩を投げ込むタイプなので。

甘やかしてあげる気は無い。大丈夫、師匠もそのタイプだったけど、私、こうして生きてるから。


ピシャリと言いのければ、勇者は今度こそガックリと肩を落とす。この子は本当に、根っからの『勇者』だ。堕ちきれていない。

そう考えると、この子の今の状態も所謂『厨二病』や『黒歴史』と思えばなんだか生暖かい目で見守れる気もする。勇者、大丈夫。みんなが通る道だから。強く生きて。


という訳で、勇者はまだ執行猶予の余地があるとして──他の3人は話が別だ。

私がいくら勇者を甘やかすな、ポーションにばかり頼るなと言っても、「勇者の1番になるために」と1度も耳を傾けなかった。

どころか、とても邪険にされた。し、なんなら嫌がらせも毎日のようにされていた。

そりゃ許すはずも同情するつもりもないってもんだ。


私が視線を彼女達に移すと、彼女達もそれに気づいたのか、小さく肩を跳ねさせる。

そうだよね、『私のポーションを飲んでいること』は勇者に内緒にしておきたいんだもんね?


「3人も、私が抜けていいんですよね?」


──私のポーションが無くなっても、いいんですね?


言外の私の言葉は無事に通じたらしい。彼女たちは三者三葉の反応を見せたが……


「ええ、必要ないわ」


1番魔力量の多いラルラが言いのけた事により、吹っ切れたようだ。


「ナギさんには申し訳ないんですけど……私たち、いつまでもナギさんに頼ってたら行けないと思うんです」

「そっ!そうよ!これはアタシ達のためでもあり、ナギのためでもあるんだからねっ!」

「……そうですか」


それがあなた達の結論なら、何も言うことはありません。


そう言った私の声は、自分でも驚く程に冷たかった。



こうして、私は勇者パーティを追放された。



※※※



「それにしても……『地味か』」


これでも20代のうら若き乙女だ。

勇者の発言は地味に心に刺さった。


確かに、日本人特有の黒髪黒目は色彩豊かなこの世界では地味かもしれない、けど、さぁ……。

勇者的には調合師という職業を言ったのかもしれないけれど、他の3人からしたら『容姿』の事を指してるんだろうな……。


「はぁ……」


やめやめ。考えても気分が落ち込むだけだ。

とりあえず、一旦休もうと転送装置で戻ってきました、地元のカリラ。

師匠の山に1番近い商業都市で、そこそこに栄えている街だ。

1度退職した後って、ちょっとゆっくりしたいよね。有給消化とか使ってさ。


勇者が『最初のパーティと出会った都市である』カリラは、ゲームだと所謂『序盤の都市』という位置付けになるんだと思う。だが、残念ながらどれだけゲームっぽくても、ここは異世界と言えど現実だ。

確かに強い魔物の出やすい地域や、比較的安全な街などはあるが、どのタイミングでそこにぶち当たるかは完全な運である。


そう思うと勇者はちょっと運が悪かったのかもしれないなぁ。


「よぉ、ナギちゃんじゃないか!」

「えっ、ナギ!?どうしたのさ!」

「お久しぶりです。マーサさん、チャーリーさん」


街を歩けば、顔なじみの人達がワラワラと寄ってくる。

この街には師匠に連れられてよく来ていたものだ。大抵の人とは顔見知りだ。


なんてったって、調合師というのは需要が高いんだ。

治癒者は確かに優秀だが、人数に限りがある。1箇所で1人ずつ治療をするのがセオリーだ。料金も高い。

その点調合師はストックさえあれば1人で多数の人数の治療を施す事が出来る。価格もピンキリで、一般市民にも広く普及している。

まあ、もちろん有事の際に直ぐに動けるのは治癒者だし、どっちが優れているって話では無いんだけど。親しまれやすいのは、そりゃ調合師だよね。


そして、師匠は良い薬を安く売る調合師としてこの街に馴染んでいた。

相場をよく知らなかった私も師匠に倣って価格を決めていたため、師弟揃って街のみんなに歓迎して貰えていたのだ。


だから、私が勇者と共にカリラを出ると告げた日は皆とてもとても惜しんでくれたものだ。

中には泣いて送り出してくれる人もいた。


ので、そんな私がパーティを追放されたと話したとなれば──……



「「「はあああああああ!!!!???」」」



思った通り、街は荒れた。

至近距離で皆の絶叫を聞いた私の耳は、それどころじゃなかったけども。

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