第2話

調合師。

その名の通り、薬草や鉱石、時には魔獣の素材などを組み合わせ、様々な製法を持って薬やポーションと呼ばれる物を作る者を指す。


私の師匠は調合師だった。

緩いクソじ……おじいさんだったけど、多分、腕前は相当だったんじゃないだろうか。

なんてったって、治癒者が匙を投げた重傷者すら師匠の回復薬で全快したくらいだ。

腕前だけはいいのは間違いない。うん、腕前だけ、は。


そして、私もその師匠から様々な知識を授かっただけあって、そこそこの腕前であると自負している。

日本人なら『私なんてまだまだです』と言うべき所なんだろうが、そんな謙遜は師匠と暮らす1日目で砂と消えた。

この世界で謙遜なんて何の役にもたちはしない。私は学んだ。


そして、独り立ちしてギルドを目指す最中──初めて出会った人物が、冒頭の『勇者』だったのだ。


『もしもし、生きてますか?』

『ぅ、……ぐ、』

『あ。生きてる。なら治験に御協力お願いしますね』


山奥にひっそりと佇んでいた師匠の小屋から、ギルドのある街──カリラへ向かう山道。

傷だらけでぶっ倒れる少年を発見し、親切心で治療を施したのがきっかけだ。

………今思えば、そのまま放置しておけばよかったかもしれない。


治験と称した人助けは見事に成功し、取れかけてた腕はくっつき、潰れていた内蔵も元通り。うん、さすが私だ。

治癒者でもなかなか治せないだろう傷だったけど……この人はどうしたんだろう。そんなにここ、危険な魔物が出る山だったっけ?


そんなことを考えているうちに、少年は意識を取り戻したらしい。

視線を感じてそちらを向くと、キラキラとした綺麗な青と目があった。

おお、少年、君イケメンだね。


金髪蒼眼の、歳は15~16くらいだろうか。日本で言うところの中~高校生くらいか。若いなぁ。

若さというのは財産だ。社会人になるとあっという間に歳をとるんだもの。ああ、高校生に戻りたい……。


なんて考えていると、がしっ!と勢いよく手を掴まれて。



「なんて素晴らしい調合なんだ……!頼む、俺とパーティを組んでくれ!!」



「……………………はぁ」


それが、私と勇者の出会いだった。



※※※



あの頃は可愛かったのになぁ、なんて目の前でふんぞり返る勇者を冷めた目で見つめる。

出会いから数年経ち、少年から青年へと成長を遂げた勇者は、かつての幼さや純粋さの見る影もなかった。


ゆく先々で勇者と持て囃され、数々の美女をパーティに迎えていく最中、彼は変わってしまった。

その度に「天狗になっては行けない」「節度をもて」と口うるさく忠告をしてきたが……どうやらそれも逆効果だったようだ。


「ナギ、確かにお前の調合は素晴らしい。何度も助けられてきた。……が!今の俺には頼りになる仲間がたくさんいる!お前のような『地味な調合師』等勇者のパーティには必要ない!」


ビシィ!と指された指を、そのまま天に向けて折り曲げる。


「あたたたたっ!」

「人を指さささない」

「うっ、うるさい!そういう口煩い所も気に入らないんだ!」


ばっ!と手を振り払い、変な方向に曲がった指を抑える勇者。

涙目になってますよ、大丈夫?


「お可愛そう……わたくしが治してさしあげますね」


そんな勇者の指を、細くしなやかな指が絡めとる。

治癒者のアイリーだ。

白い聖職者のような服装をした、ふわふわとした亜麻色の髪の乙女。

巨乳である。


「ああ、アイリー……ありがとう。……どうだ、ナギ。もうお前がいなくても、俺には傷を優しく癒してくれる優秀な治癒者がいる!」

「勇者様……」


その治癒者、私が作った聖属性増長のポーション愛飲してますが。


「それに、頼もしい仲間もいる!俺と共に戦ってくれる、剣闘士のマナだ!マナは強い。もうお前の体力増長ポーションも必要ない」

「勇者にはアタシがいれば十分でしょ!」


ふふん!と胸を貼るのは獣人族──ネコ科の少女だ。名前はマナ。

胸元の開いた服に短いスカート。防御力?何それ美味しいの?と言わんばかりの服装だ。

燃えるような赤髪はショートカットで、そこから覗く猫耳はかわいい。

巨乳だ。


その子、私の作った身体強化ポーション毎日飲んでますよ。


「あら、勇者ったら。私のことは無視なの?」

「そんなわけないだろ。今説明しようと思ってたところだ」


わちゃわちゃと戯れるにゃんこと勇者だったが、背後から勇者の首に腕を絡める美女が1人。我がパーティ最後の1人、ラルラだ。

豊かな翡翠の髪は長く、深いスリットの入ったドレスは彼女のスタイルの良さを強調する。

そのスタイルと美貌もさることながら、彼女が1番特徴的なのは、その尖った耳だろう。


そう、ラルラはエルフなのだ。

そして巨乳だ。


「ラルラの魔力量は凄まじい。攻撃も防御もお手の物だ。ラルラがいれば、お前のポーションは必要ないからな!」

「当然よ。エルフとこんな小娘を一緒にしないで欲しいわ?」


その魔力量、私が作った魔力増長ポーションを毎晩飲んでるからなんですが。


「どうだ!!」とふんぞり返る勇者とその御一行に、私は「………はぁ」という単語を繰り返すしか出来なかった。

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