第九膳『再会のメニュー』

再会のメニュー 前半

 出会いは偶然だった。

 わかれは突然だった。

 この再会は必然なのだろうか?


 オレの前から突然消えた平九郎がいた。

 あの日と同じく、捨てられた犬とか猫みたいに、一人でポツンと佇んでいた。


「ひさしぶりだな。また、お腹空かせているんじゃないか?」


 声をかけると平九郎がサッと顔を上げた。

 と、みるみるその目に涙をにじませ、白い翼をブワッと逆立てた。


「ゼ、ゼキガワザン……」


 本当に久しぶりの再会だった。

 だからって泣かなくても……マッタク可愛い奴だ。


 と、平九郎の手にエコバッグがあるのに気付く。

 それはいなくなったあの日に、消えてしまったエコバッグだった。

 中には何やら入っている様子。


「なにか買ってきたのか?」


 平九郎はうなずくと、バッグを開いて中身を見せてくれた。

 中にはキャベツが一玉と、値引きシールの張られた豚肉のパック。


「なにかリクエストはあるか?」


 オレの言葉に平九郎は小さく首を振った。

 はて? てっきりそういう事だと思ったのだが。どうも様子が分からない。

 だが真剣な表情からして、どうも大事な目的があるようだった。

 そこでオレはハタと気づいた。


「ひょっとして、オレに作ってくれるのか?」


 その言葉に平九郎は大きく何度もうなずいた。


「そいつはうれしいな! そうと決まれば帰ろうぜ!」


 二人でこの道を歩くのは久しぶり。

 いろんな思い出がよみがえるけど、そんなに遠い昔のことじゃなかった。

 それでも思い出してしまうのは、あの時間がオレにとってなにより大事な時間だったからだろう。今になってそれをまざまざと思い知る。ホント今さらだけど。


「キャベツと豚肉、鉄板の組み合わせだよな! 生姜焼きとか、トンカツとか、ホイコーローとか。あとはあとは……何を作ってくれるのかな、楽しみだなぁ」

「ま、まだ内緒デス」


 家に着くと平九郎は懐かしのエプロンを巻き、一人でキッチンに入った。それから缶ビールとコップが机に置かれ、オレはキッチンから追い出されてしまった。

 どうやら全部一人で作る気らしい。

 どうもそれが大事な事らしい。


 キッチンからはリズミカルではないが丁寧な包丁の音が聞こえてくる。

 それから何やらキャラキャラとした油が跳ねる音、どうやら揚げ物をしているようだ。しばらくするとなんともいい匂いも漂ってきた。


 あれ。なんかオレの目から涙が流れた。どうして流れたのか自分でもよく分からない。なんか幸せだったからかな。いかんいかん。どうも感傷的な気分になってる。


「それにしてもどうして急に帰って来たんだろう?」


 聞いてみたいが、それはいずれ平九郎が話してくれるだろう。


 そして平九郎が出来上がった料理をお盆にのせ、意気揚々と運んできた。

 なんだ? このいい匂いは!


 わたしのお腹が久しぶりにぐぅと鳴った……


 ⇒ to be continued

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