第六膳『初めてのハンバーグ』

初めてのハンバーグ 前半

 オレの家には料理の本がたくさんある。

 仕事柄というのもあったが、それ以前に料理の本が好きだった。

 写真を見て、材料を見て、作り方を見て、どんな料理が出来上がるんだろう? どんな味がするんだろう? なんて想像するのが楽しかったのだ。


 平九郎はこの家に来てからというもの、その料理本ばかりを眺めていた。次々に本を引っ張り出し、ページをめくっては熱心に眺めていた。


「なんか食べたいものはあったか?」


 平九郎は小さくうなずくと、一番年季の入った一冊を取り出してきた。まぁ偶然だろうが、それはオレが初めて買った一冊で、今でも一番のお気に入りだった。


「こんなハンバーグが食べたいデス」


 見開いたページには基本のハンバーグとそれをアレンジした様々な写真が載っていた。和風、デミグラス、トマトソース煮込み、おすすめの付け合わせやトッピングもいろいろと紹介されている。


「ハンバーグか! これはいろいろ作ったことある。どれも美味かったな」


 そう。この本のレシピはかなり作った。どれも写真通りに作れて、すごくおいしかったのを覚えている。わたしが料理の楽しさを知ったのは、まさにこの本からだったのだ。

 ちなみに著者は『タイラ 次郎』。家庭料理を中心とした料理研究家だったと思う。と、そこでひらめいた。


「あのさ、このハンバーグ、自分で作ってみたらどうだ?」


 あれ? なんか白くなってるな。

 どうやら想定外すぎて思考がパンクしているらしい。


「料理ってさ、食べるばかりじゃなくて、作るのも楽しいんだ。なにちゃんと手伝ってやるからさ」


 どうやらその言葉が効いたらしい。ツレはひとつうなづくと、決意の表情も凛々しく自分でエプロンを巻いたのだった。


 さて、平九郎はどんなハンバーグを食べさせてくれるのだろう?

 あの本のレシピならどれも美味しくできるはず。


 今回はオレのお腹がぐぅと鳴っ……

 音源は窓の外。


 そこに『にへら』っとした笑顔を浮かべた一羽のカラス天狗がいた。


「なになに? 今日ハンバーグなの? あたしも食べる食べる!」


 ⇒ to be continued

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