カレーの冷めない距離 後半
(しまったぁぁぁぁっ! まさかカリーだなんてっ!)
今日はちゃんとお礼を言って帰るつもりだったのに!
でも気づいた時には、スプーンを持ってテーブルについていた。
カレーにはなにか魔法がかかっているに違いない。
「さ、お待たせ」
エプロン姿の関川さんがコトリと配膳してくれる。
まずは大きな氷の入ったお冷やのグラス。
つぎに真っ白なお皿に丸く盛られたツヤツヤのライス。
そう。ご飯ではなくてライス!
そして魔法のランプみたいな銀色のツボに入ったカレーがその隣に置かれた。
(ほ、本物のカリーだ、コレ!)
ツボにはもちろん丸いスプーンも入っている。
レストランでしか出てこない、あのカリーライスが今目の前にある!
「さぁ食べようぜ。今日は昨日から煮込んだ自慢のビーフカリーだ」
ゴクリ。食べる前だというのに、もうなんか頭がいっぱいになっている。
これはもうおいしいに違いない。
「そのスプーンで少しづつかけて食べるといい。ただな、ちょっと辛口だぜ、これはお子様用のカレーなんかじゃない、大人のカリーだからな」
「い、いただきマス」
関川さんが食べるのを観察しながら、まずはお肉とたっぷりのソースをご飯にそっとかけた。カレーならではの香りが立ち上ってくる。まずはお肉をほおばる。
とろけた。
なにこれ? こんなにお肉が柔らかくなるなんて! なのにしっかり味がして、野菜の甘味がたっぷりとしみ込んでいて、カレーの香りが口いっぱいに広がって……と、そこで辛さが襲い掛かってきた。でもこの辛さがなんだかおいしい!
「こ、これがカリーライス……」
「そう。これがオレのカリーライス」
関川さんはニッと笑ってそういった。
あとはもう夢中だった。やっぱりカリーには魔法がかかっているに違いない。それか関川さんが魔法使いなのかもしれない。僕はもうカリーのトリコだった。
おいしさと辛さのたっぷり詰まったソースを大事に大事にライスにかける。辛いんだけどとにかくやめられない! ゴロゴロと入ったジャガイモはホクホクだし、にんじんはびっくりするくらい甘かった。お肉もたっぷり入って、カレーソースと合わせて食べると、もう最高だった!
「どうだ、うまかったろ?」
気づくと全部食べ終わっていた。なんだか口の中が辛い。
「カレーの後のお冷やがまた美味いんだ」
カラランと氷を響かせて関川さんが水を飲む。
僕も真似して飲んでみると、言った通り、水がすごくおいしかった!
これにも魔法がかかっているのかな?
「な、うまかったろ?」
「ハイ、こんなにおいしいカリーを食べたのは初めてデス! 修行を始める前にこんな美味しい料理を食べることができて本当に良かったです!」
「修行? カラス天狗のか?」
「ハイ。もうすぐ『断食』の修行が始まるんです」
「断食? どれくらい?」
「始めたら、ずっとです。食べ物が必要なのは動物だけなんデス。カラス天狗族は食べないことで神さまに近づいていくんデスよ」
「それはまた難儀だな」
「だから最後にこんなおいしい料理を食べれて、すごくいい思い出ができました。ほんとうにいろいろとありがとうございました!」
僕は改めて感謝の気持ちを伝えた。
ちゃんと伝えることができてよかった!
だが関川さんはちょっと困った顔をしていた。
あれ? なにか悪いことを言ったかな? したかな?
と、関川さんが今度はニッと笑った。
「いいこと考えた。ヘイクロウ、おまえ、オレと一緒に暮らさないか?」
~終わり~
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