女神の素の姿①
俺と弓波はあくまでも依頼をする側とされる側であり、それ以上でもそれ以下でもない。ただWin-Winの関係ならばそれでいいのだ。
若干俺のほうが貰いすぎてる気もするが、それは考えないでおこう。
月曜日の授業とは1週間で1番長く感じ、休み時間が短く感じる日である。そのため早く終わらないかとソワソワする生徒の視線が何度も掛け時計に向かうのが後ろの席から確認できる。
もちろん俺もその1人なのだが、今日は掛け時計に加えて弓波にも視線を向けていた。今朝の心配からではなく、今朝の俺にとっての完璧な女性と付き合うというところからくる視線だった。
弓波に恋心を抱くのは全然ありだ。意図的に抱ける恋心というものは存在しないため自然と好きになれたらの話だが。
放課後、俺は誰よりも早くに教室を出る。倉木が絡んでくることもなく久しぶりに帰宅が早くなりそうだ。
しかしそういうときに限って物事は上手く進まないものである。
「ちょっと……いい?」
「ん?」
下足箱にもうすぐで着きそうな俺の肩を、走ってきた勢いを乗せて叩くのは弓波だった。息は切れかけていて、急いできたのが自然と伝わってきた。
「どうした、そんな急いで」
一応周りに誰かいないか確認する。もし見られていたりしたらめんどうだし、弓波もそれは望んでいないだろうから。
「一旦玄関で待ってて、話しはそれからするわ」
「ん?わかった」
おそらく俺に用事があり、それを伝えるために放課後になるのを待っていたら、いつものごとく取り巻きが邪魔をして俺がここに来るまで時間がかかったというところか。
弓波は両手に何も持たずただ俺を呼び止めるためだけに走ってきたのだと理解した。
そこまでして俺を呼び止める理由は1つしか思い浮かばない。しかしそのことについては2日前に解決したはずなので思い浮かんでないようなものだ。
下足箱で上履きとローファーを履き替え、弓波が来るのを待つ。
「ごめんなさい待たせて、話しは帰りながらしましょう」
「いや待たせたことは何も問題はないが……一緒に帰るのか?」
弓波に待てと言われたときその場で話しが終わる簡単な話しかと思っていたため、一緒に帰るという言葉を聞いて俺は驚きを隠せない。
「その方が時間の無駄が無くていいじゃない」
「それは分かるが、いいのか?俺みたいな隅っこ大好き男子と帰って」
「誰と帰ろうがいいじゃない。それに私は来栖くんに用事があるついでに帰るんだから」
「……弓波がいいなら帰らせていただきます」
今まで弓波と2人で帰った男子は何人いるのだろう。もしかしたらいないのではないだろうか。これまた優越感コースだな。
浸りまくりたいわけではない。ただ成るように成れというわけではないがいつの間にか弓波とそんな関係になっているだけだ。俺から望んで関わってないし、どちらかといえば遠ざかろうとしている立場だ。
目立ちたくないし、何よりもやはり人間関係は『めんどくさい』が取り付いてくるため、そんなことに悩まされてはごめんだ。悩む暇があるなら掃除をする。
7月中旬の16時半、夕日はオレンジ色ではなくまだ昼間の輝きを放っている。暑さをイメージさせるあれだ。そんな中でも弓波は汗を1つも見せずに一歩ずつ前に進んでいた。
「早速だけど話してもいい?」
「ああ、そうだったな。聞くよ」
校門を出たと同時に口を開いた弓波に、俺は話をされるために一緒に帰っているのだと思い出させられた。優越感に浸されまくった俺はそんなことをすっかり忘れて独りバレないようにニコニコしていた。
恥ずかしさがこみ上げてくる。しかも微かな陽炎がそんな俺をバカにするように小刻みに揺れているようで余計恥ずかしかった。
「怒らないで、そして驚かないで聞いてほしいのだけれど――また整理整頓しに家に来てくれない?」
「え?」
弓波の発言に俺の頭は過去を振り返ることに全集中していた。
俺は確かに2日前、弓波の家を整理整頓したはずだよな?ああしたはずだ。夢ではなく現か?ああ現だ。じゃ俺の隣りにいる女性は何を言っている?……日本語だ。いや、そんなの知ってるわ!何語を話してるかじゃないわ!
どんなに考えても出てくる答えは正しいものではなく、俺は理解することはできなかった。
「確か2日前に掃除しましたよね?弓波さん。あれから2日でもう手がつけられなくなったんですか?」
無意識に敬語を使って弓波に問う。怒りも驚きもなくただ無心になって。
「ええ、私も驚いたわ。今日の朝起きたら服が散らかってたのよ」
「そんな真顔でヤバい状況を作った本人が言うもんじゃないだろ……」
すごすぎる。何にでも完璧になるのは難しいと言われるこの時代。もちろん勉強も運動もその1つだが、今、俺の隣に部屋を散らかす
少量の尊敬もあれば、呆れもある。
「それって空き巣被害に遭ったとかではないのか?」
可能性はあるだろう。弓波以外の誰かが侵入して荒らしていったという可能性が。でも俺の中ではもうそれはないという答えは出てるのに、なぜか聞かなければ落ち着かない感じがしたために聞く。
「ないわ。セキュリティ完璧だもの」
「ですよね!」
知ってた。そりゃ、あんなしっかりしたマンションの10階の端っこまでリスクを負って来るバカはいないですよね。
天才にもやはり抜けているとこはあるのだと人間味を証明された感じに俺はホッとしたと同時に、弓波のヤバさに気付かされた。
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