女神のバーサタイル
しらは。
第1話
(まったく、冗談じゃないよ!)
レプリカーンの少女バニラが、その小さな身体の全体から怒りをまき散らしつつ、マギテック協会の廊下を歩いていく。
協会に所属する彼女がここにいること自体なんら珍しいことではないが、彼女の様子からトラブルの匂いを嗅ぎ取った協会員たちは、目立たないようにそっと距離をとる。
そんな周囲の様子を気に留めることもなく、バニラは真っすぐ協会長の部屋に向かうとノックもせずに開け放った。
「ちょっと協会長、どういうことですか!? わたしの鑑定が誤っている可能性があるというのは!」
協会長はジョーダンという人間の中年男性で、小柄なバニラが前に立つと見上げるような形になる。
そのため、バニラ本人は怒りをぶつけるように詰め寄っているつもりだが、外から見ると祖父にワガママを言う孫娘のように見えてしまうのだった。
ジョーダンは落ち着いた様子で諭すように口を開く。
「落ち着きたまえ、バニラくん。あくまで依頼主がそう言い張っているだけで、君の鑑定が誤りだという証拠は何もない。それに万が一誤りだったとしても、君に罰則がいくようなことだけは絶対にありえないよ」
「誤りだと思われるだけでも、私にとっては大変不名誉なことです! 即座に撤回するよう要求してください!」
今回バニラが手掛けたのはバーサタイルと呼ばれる魔動機の解読である。
バーサタイルは魔動機文明時代の映像記憶媒体で、過去の映像を現代に残す貴重な資料でもある。
ただし、中身を確認するにはパスワードが必要であり、そのパスワードを探り当て閲覧可能状態にすることを協会では俗に鑑定と呼んでいるのだ。
バニラはちゃんと自身で中身を確認してから鑑定完了の結果を提出したのだ。誤りなどありえない。
しかし、ジョーダンにそんなバニラの気持ちを分かってくれる様子はなく、飄々と問題のバーサタイルを手にとる。
「まあまあ、論より証拠が我々のやり方だ。何はともあれコイツを実際に見てみようじゃないか」
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