竜の眼の魔術士

花嵐 龍子

3086/8/31



私はただ帰りたかった。私は帰りたくなかった。

私は束縛されていた。私は自由だった。

私は死んでしまった。

私はまだ生きている。

穢れてしまったこの体と共に。





 その男のいでたちは一言に見窄らしいものだった。ボロボロのローブを頭から被り、靴は所々から穴が開き、しかし腰からは美しい黒鞘の長剣をぶら下げ、中には甲冑を着ている。全身真っ黒なその男は騎士崩れの追い剥ぎの様だった。

 男は一人、夜の森を歩いていた。馬にも跨らず、灯りも持たず、ただ暗い闇の中を進んでいた。先には一軒の小屋があり、男は迷わず扉を開けた。

 中は闇だった。灯りはもちろん無く、静まりかえっている。男は懐からライターを取り出して火を付け、その小さな灯りで照明のスイッチを探しつけた。

 部屋に灯りがつくと、細長い形の黒い袋が三つ並んでいた。男がその内の一つのチャックを開けると、赤毛の少女が入っていた。その肌には温度は無く、男はチャックを閉めるとそのまま照明を消して外へ出た。

 少し離れ剣を抜くと小さく何かを呟いた。剣から緑の炎が上がり、炎は剣から小屋へと飛び移り、炎は小屋を包んだ。男は剣をしまい、ただ眺めていた。


「安心しろ、すぐに終わるさ」


 小屋が燃え尽きると男はまた夜の森を歩き出した。


「あと少しだ。あと少し。あと少し…」


呟きながら、闇の中へ男は消えて行った。

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