1. 天使と人間。

「はぁ…」

 何か呆気ない片想いだった。

「そんなに嫌いだったのかな…」

「きっと、な」

 はい?!

 一緒に住んでいる者などいない筈…。とうとう幻聴が聞こえるようになってしまった、か…。

「いやいや、ここにいるだろ」

 強引にその声のする方へ引き寄せられた。吸引力の強い何かに吸い寄せられたような感覚…。

「え…」

 人外を見たような気がする。やっぱり、私…おかしくなったのかも知れない…。

「現実を受け入れて、俺に…」

「む、無理…」

 何で、目の前に自分好みのヒトがいるのだろうか。羽があるから天使か何か、か…。

「面倒…」

「面倒だから、フラれたのも分かってるんです!!」

 こうなったら、どこの誰か知りませんが、八つ当たり、失礼。

「理由分かってるなら、いいんじゃないの?」

「でも、貰ってくれていいじゃないですかっ」

 結構、奮発して買ったのに…。

「俺が貰うけど…?」

「あげませんっ!!」

 天使さん(仮名)が、鼻で笑っている。何かムカつくんですけど…。

「何で?」

「何が…ですか?」

「何で、そのヒトに渡したいの…?」

「好き、だから…」

 更に、おなか抱えて笑うってどういうことよ。失礼にも程がある。

「浮気癖あるバツイチのヒトを好きになるって…。何を以って好きなのか…。あ、顔か…。因みにあなたが見えてる俺の姿は、あなた好みの姿なのよ。こういうのがタイプなワケね。それはいいけど。中身の話だよ」

 どこがと言われると、それこそ外見しか知らない…。

「それってさ。自己愛でしょ。内面好きにならなかったら好きではないと思うんだけど…。あ、そうだ…」

 いきなり、目の前が真っ暗になり、グラグラ揺れる感覚とドサッと鈍い音が聞こえた瞬間、

『何で貰わなかったのよ。私、食べるのに…』

『いや、それ目的で貰わないよ』

 それ目的って…。貰ってくれなかったのは甘いモノが好きではないってこと…??

 チューですか。そうですか…。見たくないと天使さんへ視線を移すと、

「これは浮気相手。本命は次だよ」

「え?」

 ところで、こちらは見えない仕様なのだろうか。と考えた瞬間、必要な物しか置いてないようなスッキリした部屋へと場所が変わった。

『何もないって…』

『たくさん貰って来たんじゃないの?』

 誰々さんとか誰々さんとか…。そう言って、彼が持って帰って来たプレゼントを開け始める。

『義理だよ』

『義理の、内容が…義理っぽくないじゃん』

 ほら。コレなんか数千円もする上等なチョコだことと言いながら、全て開封する勢いの彼女さんに、

「怖」

 思わず声が出てしまった。

『そう言えば、お子さんから貰うんじゃないの?』

『うん』

『まだ、貰ってないの?』

『うん…』

『貰ったらすぐ食べようと思ったのに…。残念…』

『何で俺の食べようとするの?』

『元奥さん、上手に作るからね』

 早く食べなきゃ。と万遍な笑みを浮かべている彼女さんとは対照的な悲壮感溢れる顔で彼は引きり笑っている。

 まさかと思うけど、元奥さんから貰っているのでは…。と頭を過ぎる。

「正解」

「え?」

 その瞬間、また場所が変わる。

『はい。コレ…』

『ありがとう…』

『ぱぱ、これ、かりんから、あげる』

『ありがとう…』

 ここだけ見れば、いい話よ。

『じゃあ、またね』

『酷いな…』

『他に待たせてるんでしょ?』

『そんなヒトいない…』

『嘘つき』

『うそつきっ』

 子供の無邪気でストレートな言葉に、何故か涙が…。

「泣く要素、あるか?」

「あるよ…」

 この場面だけ見れば、泣けるよ…。

「酷いヤツだって認識して欲しかったんだが…」

「無理…」

 好きだもん…。きっと恋人になるような好きじゃないって分かってる。叶わない初恋のようなものだから。

「帰るぞ」

「うん…」

 そうして、次の瞬間。

「イタタタタ…」

 見覚えのある床があった…。

 痛過ぎて、涙が…。

「おはよう…」

「おはよう…って、アレは夢じゃなかったの?!」

「そうだね…」

 優しい笑顔で、天使さんはふわっと消えた…。

「え?」

 消えた?!

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