113.転校初日

 おいそっちは行き止まりだぞ、と言われても立ち止まりたくない時のような。一刻も早くこの場から逃げ出したくて、誰にも見られたくなくて。ちくちくする視線がそこらじゅうに飛び交ってて、ぼくは頭が真っ白になる。


 長い沈黙が訪れる。


 「転校生」の賞味期限なんてもって一週間なんだから。いい意味にも悪い意味にもとれるような台詞がお母さんの口から飛び出した。皆から注目されるのは最初だけで、そこで全部が決まるんだって。緊張することはない。いつも通りでいればいい。でも、ダメだった。人生は減点方式で第一印象がすべてなんだ。ぼくは、マイナスからのスタートだ。


 震える声をおさえながら、ぼくは自分の名前を口にする。やっとの思いで出しきった言葉に、四方から拍手が散った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る