86.病み系お姉ちゃん

「なんで急所外した? 私は本気だってのに」と死にかけのような顔で懇願するお姉ちゃんを前にして、ぼくは今日もお姉ちゃんを許そうと思った。お姉ちゃんがたとえどんな我儘を言っても。


 お姉ちゃんとぼくの右手には、百均で購入したシャボン玉銃が握られている。


 お姉ちゃんは癒しを求めている。今の仕事は辛くて死ぬほどしんどいらしい。だから、ぼくはお姉ちゃんに構ってあげないといけない。そうしないと、たちまち病みモードが発動して、一週間はずっと自分の部屋に塞ぎ込んでしまうから。


 最近流行ってる曲で『いつか愛だと知る日が来るから』っていう歌詞が、夫からのDVに耐え忍ぶ日々を送る女性の悲痛な叫びにしか聞こえなかったんだよね。お姉ちゃんは今日、そんなことを言っていた。


 あぁ、ぼくがお姉ちゃんを助けてあげなくちゃ。そうやって、ぼくは今日もお姉ちゃんと遊ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る