ヘリウムガス
未来にて。
開基の元まで退却したニイサは開基に、一体のボスに装備した【ゆらららぎ】が他の無数のボスによって破壊されたので、早く改良した【ゆらららぎ】を製作するように伝えた。
もう作っている。
開基はそう言うや、製作した何十個もの【ゆらららぎ】を見せながら、確認っすと言葉を紡いだ。
「ボスはすべての【はぐさ】に組み込まれている電子回路の一部に侵入し、【はぐさ】を操っている。大本であるボスの無数ある身体の一体でも【ゆらららぎ】を装備すれば、ボスは元より、すべての【はぐさ】も暴力破壊衝動は抑えられ、リラックスした状態に戻る。っすよね?」
「ああ。だが、ボスの暴力破壊衝動はもしかしたら、現状の【ゆらららぎ】では抑えられないかもしれない。確かに【ゆらららぎ】は太陽、月及び宇宙からの電磁波による破壊及び一時停止、変化の阻止を図ったものであり、ボスがどれだけ変容していようが効果はあるはずなのだが。おまえがすでに製作したものは、俺がボスに使用したものと同じならば意味がない。もっと強力な【ゆらららぎ】を製作しなければならないだろう」
「追いつき、追い越し、追い越され。その繰り返しっすね。本当に、製作は果てしないっす」
にやにやにやにや。
この危機的状況にもかかわらず、開基は目を爛々と輝かせて、新しい【ゆらららぎ】を製作すると言った。
「よく絶望していないな」
「ええ。まったく。俺には強力な味方が居るっすからね。七星天道虫と、過去の中井恵が。お願いします。中井恵。あなたの歌声を聴かせてくれっす。あなたの歌声を聴いて、さらに想像力を羽ばたかせるっす」
「歌うから………って」
ニイサの身体に取り込まれていた中井恵は目を丸くした。
「え?」
変わっていたのだ。
声が、
ヘリウムガスを吸った時のような高音の声に。
「オレタチノサイゴノアガキダ」
「は?」
どこからか声がしたかと思えば、一匹の雀が飛んで来て、開基の肩に降り立ったのである。
(2024.6.26)
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