始まりの日・2

 突如現れた『太陽』は先ほどまで二人がいた町を圧倒的な熱を帯びた炎で焼き尽くし、周囲を飲み込んでいる。飲み込まれた人々は、叫び声さえ上げることができないままただの肉塊へと変わっていった。


 ソレは勢いを止めずさらに周囲の町を溶かし始めた。




周囲の人間の反応は様々だ。恐怖でその場から離れることができずただ突っ立っている人、恋人が炎に飲み込まれたのを目撃し、ただ叫ぶ男、まだただのハナビだと思って空を眺めている子供。クロエもその子供と同じような反応だ。


このままではいずれ自分たちの場所にも炎が届いてしまうだろう。


状況がいまだにつかめないがそう思ったギルアはすぐにクロエを抱き上げすべてを照らす光を背に全速力で駆け抜けた。


クロエは急に体を持ち上げられ、少し混乱しながらも恥ずかしそうに「わっ!急にどうしたの、お兄ちゃん?」と言っていたがギルアは無視して走り続ける。


未だに状況がつかめていない人たちには目もくれず自分のたった一人の妹を守るためにギルアは森を駆け抜ける。


ギルアがクロエを抱え走り出すと、少しして同じように状況を理解した人々が一斉に太陽と逆の方向に走り出していく。中には前の人間を押し倒してまで前に走ろうとする大柄の男や親とはぐれ一人立ったまま泣いている少年、状況が受け止められずに我を忘れ狂ったように笑いながら太陽へと歩き出す青年、後ろの人間に押され体制を崩しそのまま後列の人々に踏み倒されそのまま絶命する妊婦。さらにその後ろでは熱波が届いたのか、声にならない叫び声をあげている人々が同じように燃える肉塊へと変わり果てていた。




とうとう熱波が自分達にも襲い掛かってくる。背中が焼けるように熱い。きっともう服は溶けてなくなっているのだろう。それでもクロエにできるだけ熱波が来ないように自身の体でクロエを守る。




その時、急に今まであった熱気が一気に収まった。何が起こったか理解ができなかったギルアは走る速度は変えず背後を見る。そこにはさっきまで逃げてきた人だったものが無造作に横たわっていた。そのほとんどの肉は焼け煙を出しており、炭と化しているものまである。


 「地獄はどのようなところか」と聞かれたらギルアは真っ先に答えるだろう、「ここにある」と。


ギルアはこの地獄を作り出した元凶を見上げると、目を見開く。先ほどまで圧倒的な熱と光を帯びていたはずのソレは漆黒の膜に覆われていた。




最初に現れたときは圧倒的な光を帯びており、直視することがかなわなかったのだが、今の漆黒の膜も同じように直視することができない。視てはいけないと本能が叫ぶ。




そして、彼は理解する。その膜が何なのか。それは”呪い“だ。灼熱の業火に焼かれた者の、骨も残らず焼かれた者の、家族を殺された者たちの、呪いだ。それが地獄の炎の周囲を包み込み、繭を形成していたのだ。


 「「「それは死である。それは憎悪であり、それは宿痾であり、それは執念であり、それは罪であり、それは、悪魔の卵である」」」どこから声が直接頭に入り込んでくる。「「「彼は炎、彼は無知蒙昧なる王の眷属、彼はこの世のすべての罪人、彼は、彼は、彼、彼、か、か、かかかかっかかかれはかれはかれはあああああああああああ、aaaaaaaaaaa」」」頭に響く声は次第に正気を失っていき、支離滅裂な言葉しか話さなくなった。そして最後に「「「彼の名はフェネクス!死なず腐らず生き続ける我らの王!今こそ卵から生まれ、呪いの産声をあげ賜え!誕生に祝福あれ!この世に災いあれ!!!」」」そう叫ぶと同時に呪いの繭からナニかが生まれ落ちた

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