飢える人

くるみ

気付けば

男は目覚めた。

冷たいフローリングの床にいつ着替えたともわからない作業着のままで横たわっていたことに気付いた。

朝日はとうに昇りカーテンの隙間から陽ざしが差し込んでいた。

3時間ほど眠っていたらしい。

そうだ失業していたな俺。メシ代が無く昨日、友也に金を借りて、深夜3駅歩いてアパートに帰ってきた。途中でセブンによって弁当とビール買って食って、寝た。

41にもなって、1Kのアパートに燻って、俺は何をしたいんだ?

男は、漫然とした不安と脱力感で蛇口に口を当て水を飲みながら、今日も生きていることを受け入れている。

全ては自己責任と人は言うが、俺の運命は生い立ちのせいだという思いが染みついていた。何を言われても、お前らに俺の何が分かるんかい!と開き直り、人とは距離を置いて生きてきた。

男は何か自分が考えていたことを思い出そうとした。

誰かに語りかけられていた言葉を探していた。

あごひげを垂らした老人が、7日ほどでお前が望むものを与えてあげると言うではないか。さあワシが見えている間に願いを言ってみろ。

望むもの…望むもの…

金が欲しい、家も欲しい、車も欲しい、女も欲しい。

何もかも欲しいものだらけだ。

なぜ金が欲しい?老人が訊ねると男は、

子どもの頃から金のない生活をしてきたから、金のある生活がしてみたい。

食いてえものも食えるし、着たい服も買える。

人並みに暮らしてみたい。

幸せになりたい。

そうか幸せにな。と老人が言った。

そこで男は目が覚めた。夢を見ていたようだった。




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