第34話 闘色祭決勝戦の色(2)

 ボクが駆けると同時に雹真さんの目に青と白が宿る。有利色に対して舐めた戦いをするつもりは無いらしく、油断や隙を着いて倒せる相手ではないことを再確認する。


「そんな勝ち方があるわけないだろ! ゼインさんと同じかそれ以上だと想定して戦う!」

「俺の推しのネス選手、最上級冒険者相手に勇猛果敢に飛びかかるぅ!」


 短剣を構え低い姿勢で体を制御し、正面から詰めたトゥーに対して左回りになるように詰める。

 雹真さんの目に灯された色が青と白で分かれるなら、水と冷やす機能は左右別で扱われている可能性が高い。もちろん白側だからといって青を殺せる訳でもないと思うが、せめてもの気休めだ。瞬間的に少しでも不利を消してボクにできることを選択する。


「くらえ!」

「まだまだ素直だ」

「!!」


 トゥーに出した氷壁であと攻撃出来る箇所は左右の二つだ。

 雹真さんは事前にしかけた氷壁をトゥーに使った直後、僕らがそれに目線を取られた瞬間にまた左右に氷を仕掛けていたらしい。

 ボクの足元から今度は薄く鋭い氷が突き刺さろうと襲ってくる。


「くっ避けられな⋯燃えろ!」


 体の熱を無理やりさらに上げる。身体強化を習得し、次の炎を操る段階はまだ不完全だ。できることなら使う回数を限りなく減らして戦いたかったが、今この瞬間切れる手札がこれしかない。

 幸い薄い氷だったためボクの炎が弱くても刃先を溶かし、短剣で受けれた。


「ネス選手に向けられた氷刃は何とか防いだァ! そして息をつかせまいとトゥルエノ選手の雷槌が降り掛かる!」

「地面がダメなら上からだ!」

「そんなありきたりな隙⋯作るわけないでしょ」


 左手を振り上げるとボクが溶かした水の塊をトゥーに向ける。


「話聞いてなかったのか! トゥーは電気、水のお前の攻撃は効かな⋯!」


 トゥーの纏う電気に触れた瞬間に上から振り下ろそうとした高速の拳をまた無理やり振り抜き、水の塊に対してぶつける。

 水は高速の一撃の重さに耐えれずに地面へと水が飛び散る。


「なんだ、よく気づいたね」

「おぉっと! どうしたトゥルエノ選手、地面からの氷刃を避けての頭上の一撃。有利とはいえ最上級の青を危惧したか、なんと水に対しての空中高速裏拳! 二人の高速攻撃、実況席から見ていても目が回りそうだァ!」


 一度仕切り直し、トゥーと並ぶ。トゥーは髪を逆立てたまま臨戦態勢を解いていないが、何か嫌な顔をしている。


「気づいた⋯? トゥーどうしたの、水の状態ならトゥーの方が有利でしょ?」

「⋯雹真の青はすっごくキレイだ」

「え、確かに水と氷を操って綺麗だけど⋯それがどうかしたの?」

「ちーがーう! あの水はダメなの!」


 雹真さんが飛び散った水を集めながら待ってくれているのをいいことにトゥーの話を聞くがいまいち要領を得ない。


「おぉっと? どうした挑戦者の二人、なんだか揉めているようだぞ!」

「ダメって言ったってボクがとかしてトゥーが叩くしか今勝つ方法は⋯!」

「あぁもう! とにかくあの水は無理なの! 雷がきかないの!」

「雷が効かない水⋯?」

「分かって無さそうだから教えてあげるよ」

「雹真さん⋯?」


 動かなかった雹真さんが口を開く。恐らく、トゥーに対して何か確信を持ったから再度リタイアさせようとしているのだろう。


「僕の青が操れるのは純水、そこにある水分を濾過して不純物を取り除いた状態にしないと扱えない」

「純水⋯? だからって雷が通らない理由には⋯」

「なるよ。純水は水を通さない、あくまで完全に不純物を取りきった場合だけどね。だから僕には黄色は不利色じゃないんだ」


 最強の青使いに黄が効かない種明かしをされてボク達は勝ち筋を明確に失った。

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