七天戦争

紅の熊

第1話始まり

古い木造の道場内に響くぶつかり合う竹刀の音、次第にその音は激しさを増して行き最後には片方の男の竹刀が飛ぶことでその打ち合いは終わった。

「もうやだよぉやめよーぜこの鍛錬」

「バッカもん!何を言うか!そんな心構えで”七天戦争”が乗り越えられるか!」

竹刀を飛ばされたまだ幼い顔つきの白髪の少年は汗を道場の床にたらしながらだらしなく寝転がる。それを白髪と黒髪が混じった初老の男性が叱責する。

「またそれかよぉ、その戦争って100年も前に起こったやつなんだろ?なんでその戦争と俺が関わってくんだよ」

「律、貴様ァ!あれだけ教え込んだと言うのに!さては聞いておらんかったな!」

「ウギっ!バレた!」

「汗を拭いたらわしの部屋に来い!七天戦争について叩き込んでやる!」

「いやだぁぁぁっ!」


20分後⋯⋯

寂れたテーブルとヒビだらけのタンスしかない和室で先程の少年と初老の男性はテーブルを挟んで対面していた。

「よいか!七天戦争とはな⋯⋯」


100年周期で訪れると言われる七天戦争、それは七人の死神と七人のマスターによる死神の王を決める戦い。現実世界とは別の霊界に住む死神達は王とその他の七人の死神の合計八人が住んでいる。その七人の死神達が現世で最も死神と関わりの深い七つの家の子どもと契約を結び戦争を行う。そして戦争で勝った者には死神の王としての称号を受け取ることができ、王の称号を与えられた者は現実世界も霊界も生きとし生けるもの全てを操ることが出来る。だからこそ死神達はその座を狙うのだ。


「それで我ら如月家は代々その役目を全うしてきたのだ」

「なぁひとつ聞いていい?」

「なんじゃ?」

「その七天戦争とやらに勝ったら、俺ら人間側になんのメリットがあんの?」

如月律は白い前髪をいじりながらおじいちゃんに聞く。

「バカもん!そんなもの死神様達の誉れのためじゃろうが!」

「なんだよ死神様って、へりくだりやがって、くだらね」

「おい待て、律!」

おじいちゃんの止める声も聞かずに律は自分の部屋へと歩き出す。

(クソ、死神ってなんだよムカつくなぁ!)

バンバンと床を踏みしめる。この少年面倒くさがりやなくせに誰かに下に見られることを極端に嫌う。この少年は良くも悪くも誰に対しても平等に接したがるのだ。

「あーあー、学校行こ」

髪を掻きむしりながら、自分の部屋に戻り、支度をする。これが彼の日課だ、朝早く起きておじいさんと打ち合いをし、シャワーを浴びてから高校に行く。まだ高校一年生だと言うのになかなかハードなスケジュールである。


「すーっ、うん、いい天気だ」

春の気持ちがいい風が鼻腔をくすぐりちょうどいい暖かさの太陽が律を包む。朝の嫌な気持ちも吹っ飛びそうだ。

「よし、行くか」

律は自転車にまたがり、ペダルを押し始める。少し重いペダルが足に負荷をかける。そしてこの日から彼の物語は始まっていく⋯⋯。



長い長い坂を下っていくとそこに俺が通っている学校がある。学校までの道のりが長いから着く頃にはもう汗だくだ。

「あー、疲れたー!」

「おはようございます、律さん」「おはようなんだな、律」

席に着くとすぐに俺の前に集まってきたのは太っていて優しい顔の田中優とテストで毎回一位をかっさらう秀才向田連だった。どっちも俺の大切な友達だ。

「今日も修行してきたんだな?」と優がポテチをむさぼりながら聞く。

「そうなんだよ、あんのジジイ厳しすぎる〜」

「でも、おじいさんは律さんを思ってしてるんじゃありませんか?」

「いや、絶対に違うね!あれは俺を痛めつけたいだけだよ!」

「そんなこと言って」

連はため息を吐いて困った顔をする。たくっこいつらはじいさんの怖さを知らねーんだ。そうだ!今度修行につれてこ。うっひっひ、こいつらの音を上げる声が聞こえてくるみたいだぜ。

「なんか気持ち悪い笑みを浮かべてるんだな」「違いますよ優さん、律さんはいつも気持ち悪いです」

「おい貴様ぶち殺されたいのか」


と、馬鹿みたいなやり取りをしていると教室の隅から歓声が聞こえてきた。あー、もうそんな時間か。

「渚さま!」「今日も美しいですわー」「な、なんて美しさなんだ、渚様が輝き過ぎて直視できない!」

そんなクラスメイトの歓声を一身に浴びているのは学校の、いや、この街のマドンナ七条渚である。


髪は短くボブのような髪型で、燃えるように綺麗な赤色をしている。顔のパーツは黄金比のように整っており、100人いれば100人振り返るような美しさである。その上凹凸学校はっきりとしたスタイルの良さ、もう完璧である。男子高校生の間では彼女の為にミニスカートが存在すると言う言葉もあるぐらいだ。


さて、渚さまが来たところで俺も今日の義務を果たそうとするかね。

「おい、優、連、双眼鏡の準備はいいか?」

「「いつでも」」

俺がそう言うと二人はばっと素早くポケットから小さい双眼鏡を取り出す。

そう、これが俺たちの日課、渚様観察である。大衆に囲まれた中で渚様を目視するのは難しい。だが、大衆から離れたこの場所からならば、渚様を直視することができるのだ!

「はー、美しい、渚様見てるだけでご飯10杯いける」「神様なんだな」「ふー、僕がこんなくだらないことをやるのは本当は、ほんっとうはいやなんですけど、あなた達を尊重して混ざりましょう」などと教室が騒がしくなった所で

「おい!お前ら早く席につけ!」

という先生の恫喝によって俺ら渚様の群衆どもは蜘蛛の子散らすように各々の席に座っていく。ふむ、今日も渚様を見れた、満足、満足。


そして今日もいつも通りな放課後が訪れるはずだった⋯⋯だが、今日だけは違った。

「君が如月くん」

「ふえ?」

俺の席の前にたっていたのは、驚くべきことに渚様だった。あまりの衝撃に情けない声が出る。

「君が渚君で合ってる?」

「はい、そうですけど⋯⋯」

渚様の美声に惹かれたクラスメイト達が俺と渚様を中心に集まっていく。男子の中には下唇を噛んで悔しがるやつもいた。まぁ分かる。俺も逆の立場なら目から血が出てたもん。てか、なんで渚様が俺なんかに⋯⋯

「そう、ならいい、じゃあね時間取らせてごめん」

「え、それだけ?」

「うん、それだけ」

あまりにも淡白にそう言うから、俺はちょっと戸惑ってしまう。

「じゃあね、あ、あと夜道には気をつけてね、私からの忠告」

最後にそう言って渚様は群衆をかき分けて消えていった。一体なんだったのだろう。俺はそう思いながら渚様が声をかけてくれたことに高揚していた。


「いいなぁー、渚様に話しかけて貰えるなんて」「ずるいんだな」

「そうか、ごめんな、なぁ?謝るからさ、ここから下ろしてくれない?」

俺は渚様に話しかけられた罰として、近くの公園の木に身体中にガムテープを巻かれて貼り付けにされていた。

「何言ってんのさ、僕らが飲み物買ってくるまでそのままだよ」

「じゃあ早く行ってこい!」

「わっはっはっ、律面白い格好してるんだな」

こいつらっ!いつか見てろよぉ。そしてしばらく俺は笑いものにされた後、あいつらは飲み物を買いに行った。

「はぁ、やっと行ったよ」

もう、いくらなんでも木に巻き付けんのはやりすぎだろ。はぁ⋯⋯ま、いっか!今日は渚様に話しかけられた日だしなぁ。

「ふんふんふん♪♪♪」

ご機嫌よく、鼻歌を歌っていると、公園の入口に人影が二つ見えた。

「おーい、お前ら遅いぞ」

ここら辺は人通りが少なく、ここの公園もなかなかマニアックな場所なため、二つの人影がきたとなれば優と連だとすぐに分かった。だがよくよく見るとまるで違う人だった。ていうか体格が全然違ったわ、やけに肩がでかいし、やべぇ人違いしちまったよこういう時は明後日の方向をむく!お願いします!さっきの声が聞こえてありませんように!

ざっざっと土をふむ音がだんだんと近づいてくる。やばいやばいやばいやばいやばい!


そしてざっと、俺の近くで足音は止まる。くー、これは振り向くしかないか。

ギギギッと硬い動きで目の前にいるであろう二人組に顔を向ける。そして気づく。

「よぉ、お前が如月だな?」

目の前にいたメガネの男は血だらけになった優と連を両肩に担いでいた。






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