第75話 悪戯心
「――こっちに階段があったよ!」
「意外に近いな。この辺りの階層は入り組んでいないし、サクサク進めそうで良かった。でもその前に……」
脳裏に不安が過り、ジトっと滲み出る汗を拭き取っているとクロが次の階層の階段を見つけた。
さっさと階段を下ってしまいたいところだが、折角時空弓なんていうものがあるからちょっと面白い仕掛けを残しておこう。
『時空弓、魔力消費10。魔力矢、消費魔力50』
俺はスキルを発動させると何もない天井に向かって矢を連射した。
頭の中で一応さっきのトロルを想像して放った為、矢がストックされてその場から次々と姿を消す。
このままなら、次にトロルが湧いたタイミングで自動で攻撃を始めてくれるはずだが、それだと拓海と朱音が来たタイミングで驚かせる事が出来ないだろうから……。
『時間設定』
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■時空弓設定
現在対象:トロル、ハイトロル、トロルテイマー
設定時間:ランダム射出適用中、対象発見から10秒後射出。変更可能
魔力矢ストック:50
範囲状態:小(スキル強化の度に拡大)
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駄目元でターゲット設定の時と同じ様に念じてみると、専用の設定画面が眼前に表示された。
恐らく時間は決められると思っていたが、複数を選択出来る、更にはランダムの射出のオンとオフの切り替えまで出来るとは思っていなかった。
しかも使用するにあたって難点だった範囲に関しても強化後は広く出来るらしい。
「ふ、これであいつらも驚いてくれるだろ」
「何か前にも似たような事してなかったっけ? 一也さんって意外に悪戯心があるよね」
「はは、俺もそろそろおっさんなのにな」
「別に悪い意味で言ってないよ! ほ、ほら早く次の階層に行こ!」
「分かったから、そんなに服を引っ張るなって」
必死に否定するクロ。ちょっと意地の悪い返しをしちゃったかな?
まぁ、勢いでいつもの距離感に戻ってきた感じがあるから良かったかな。
「――それで今のって全階層に仕掛けるつもり?」
「ああ。魔力量もレベルアップで大分増えたし、トロルから吸収出来る魔力量も多いから問題は無いと思う。その時の拓海達の様子を見てみたいが……。一番は急いで50階層に到達する事だからなぁ」
「……そうだよね。急がないとだよね。うん。……恥ずかしいとかそんな事言ってる暇ないよね」
「ぐ、お。う、えに……」
「またか」
「でも前より登ってる段数が多いよ」
急ぎ足で階段を下りながら今後の話をしていると、目の前に再びトロルが現れた。
相変わらずの血だらけだが、さっき階段を上ろうとしていたトロルに比べると体つきがいい。
32階層ではハイトロル以上が一番下っ端になっていて、階段を上る役割を担わせられているらしい。
という事はさっきよりも強力な個体が居るのは間違いないな。
『魔力弓、魔力消費20。魔力矢魔力消費50』
「手負いなら一発で倒せるだろ」
「……一也さん、その、私の力も使って」
俺が弓を構えるとクロがそっと俺の背中に触れた。
すると触れられている箇所から次第に全身が熱くなる。
魔力を回復する時に似ているが、それよりも優しい。例えるなら半身浴ってところか。
「ありがとうクロ。魔力消費があるだろうから無理だけはするなよ」
「うん。分かった」
俺は一言クロに感謝をするとそのまま弓を引いた。
放たれた矢はいつもより太く、そして速い。
矢の見た目が変わる程攻撃力が大幅に上昇しているって……これ、どれ位攻撃力上がってるんだ?
「確認するか……。『攻撃力:5500』――」
――バンッ!
トロルの身体の中心に当たった矢はそこに大きな穴を開け、肉片を弾き飛ばしながら穴を拡張。
結局トロルの身体は指先すら残らなかった。
魔力を大量に消費した魔力弓のバフよりも、クロのバフは効果が高いのかもしれない。
「しかも反動も無し、か。これならずっとクロに触ってもらってた方がいいかも――」
「それはちょっと恥ずかしすぎるよ!」
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