第66話 クロの弓

「かなり長い階段だったわね」

「元々のダンジョンでコボルトがいる階層相当の深さなんだろうな、あの場所は」


 俺とクロの前を行く拓海と朱音は息1つ乱さず、会話をする。

 本当にこの長い階段を一緒に登って来たのか、と思うくらい俺達とアダマンタイトクラスの2人には疲労の差がある。


「それでここは……。遺跡の裏側か? 辺りに敵はいないみたいだが……全員油断するなよ」


 階段を登りきった先に見えたのは石造りの神殿に似た古い建物。

 その周りにはその神殿への通り道を示すかのように柱跡が残っている。


 日本にある古墳や貝塚の遺跡と比べると随分西洋風だ。


 今俺達がいる場所がどこかの神社がある山の中だからか、少し先に見える鳥居等とはあまりにミスマッチだ。


「こっちにはダンジョンの入り口になっていそうな所は無いわね。正面に移動するわよ」


 俺達は朱音を先頭に遺跡の正面側へ移動を開始する。


「痛っ……」


 しかし移動をして間もなくクロが頭を押さえて辛そうな表情を見せた。

 この反応は記憶を思い出そうとする時のもののようだが……。何故このタイミングで?


「クロ、大丈夫か? まだ辺りに敵は見えない。少し休んで――」

「大丈夫、ただちょっとこの建物に見覚えがあった気がしただけで痛みも大したこと無いから。心配してくれてありがとう、一也さん」

「そうか。無理だけはするなよ」

「うん」


 この遺跡に見覚えがある。

 クロがこの世界にやってきてからはずっとダンジョンの中にいた筈。

 という事はこの遺跡も異世界のものなのか?

 それならどうやってこの世界に転移してきて――


「居たぞ。こっちに気付いてない今がチャンス。一気に奇襲して侵入する。弓での攻撃は探索者達を殺しかねないから一也はまずここからモンスターだけを狙ってくれ。クロちゃんは俺が拘束して探索者達にリジェネを頼む。いくぞ朱音」

「ok」


 正面側に移動すると、金色スライムとビッグスライムが複数、それに探索者が辺りを見回っていた。


 暇そうに辺りを散策する様子をチャンスだと思った拓海は俺達に指示を出すと、朱音を引き連れて戦闘へ。


「魔力弓、魔力消費10。魔力矢、魔力消費30」


 俺は2人が敵に見つかる前に魔力矢を連射。

 弾け飛ぶモンスター達に探索者は驚き、足を止める。


「な、何が起きっ――」

「『アクアプリズン【インエアバブル】』」


 大きな水の塊の中に閉じ込められた探索者。

 そしてその中に朱音が石を投げ入れ、探索者と足の場所を次々に入れ替えていく。

 水の塊の中は2層になっており、内側の層は水色、外側は濃い青色になっている。

 元気よく動き回る探索者達を見るに内側では呼吸が出来るようだ。


「はぁはぁはぁ……。ちょっと疲れてきたかも」

「朱音、後だっ!」

「『スタンプアーム』」


いつの間にか朱音の元まで近づいていた探索者がその両腕を振り上げそして、腕だけを巨大化させた。

 朱音の防御力がいくら高いとはいえ、あれで叩かれたら圧殺されかねない。


 弓は引ける状況だが探索者の事を考えると――


「一也さん! 魔力弓と魔力矢『貸出』させて!」


 思考を巡らせていると、クロが俺の背中に触れ言葉を荒げた。

 俺がそのお願いに心の中で返事をすると、クロの手には魔力弓と魔力矢が。


「当たって……」


 願いを口にしながらクロが弓を引くと、矢は4つに分かれて両腕、両足を射抜いた。


「ぐああああああああああああっ!!」

「ナイスクロちゃん!」


 叫び声を上げた探索者は直ぐ様水の塊の中へ。

 そうか、クロが魔力矢を当てても『必中会心』の効果がないから探索者も攻撃出来るわけか。


 なんか久々に矢が普通に的を射抜いているのを見たな。

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