第65話 一撃

「やっぱりか」


 ダースウルフェンがその場に倒れると、アナウンスが流れ、今度はウォーコボルトが姿を変化させ始める。


「ロードコボルト……80階層のボスね。確かに強力なスキルだけど、命を絶ってまで発動させるなんて……」

「発動させた、というより勝手にそうなったって感じだったな。『武器屋』っていう職業にモンスターを操るスキルは無い筈、それに奴の言っていたギフトスキル……正常化反対派のトップはとんでもないものを仲間に押し付けてるようだ。残念だが死んだ人間を生き返らせるのは不可能。朱音、一也、クロちゃん、今は戦闘に集中しろよ」

「は、はい……」


 拓海の注意を頭に入れる余裕がないのか、クロは声を震わせながら適当に返事をする。

 今までの話から正常化反対派のトップは佐藤さんである可能性が高い。

 そんな佐藤さんが人の命を奪う様な事をしているとあれば友達であるクロにとってこれ以上ないダメージ。

 暫くクロは戦闘が出来ないと割り切った方が良いだろう。


「クロを守りながら戦う。いや、戦う必要の無い状況を一先ず作ってやるか」


 男性の死は悲観すべきだが、以前一撃で倒せなかったロードコボルトをまた相手に出来るまたとない機会。


「皮肉だが、自分の成長を確認するにはうってつけの敵だな」

「来るわっ!」


 各ロードコボルトは地面に手を当てて、もう片方の手にも武器を携えると凄まじい勢いで突っ込んできた。


 しかもまずは弓を持つ俺の攻撃を封じる為か、全員が俺の元に。


 エンチャント武器がある所為で遠距離からも攻撃が飛ん出来て避けながらの狙撃、更に距離の確保は難しい。


 とは言ってもそれが出来ないわけではない。


――パン!


「ロードコボルトでも問題無しだな」

「うそ……。それロードコボルトでも一発で仕留められるの?」

「確か一也は魔力を回復出来るんだったな。それにそんなの見せつけられたら……。しょうがない、今回は俺がサポートに回るか。――『アクアホールバインド』」


 俺がロードコボルトを爆散させたのを見ると、拓海は残りのロードコボルトの足元に小さな水溜まりを作った。


「がっ!?」


 唐突に出来たそれをロードコボルトは避ける事が出来ず、右足を突っ込ませる。

 すると、一見浅そうに見えた水溜まりの中にロードコボルト の右足はズブズブと埋まっていき、太股の辺りでそれはようやく止まった。


 まるで底無し沼のそれの様な変わったスキルだが、足止めにはこれ以上ない効果だ。


「拘束時間は長くない! 今のうちに決めろ一也!」

「拓海がサポートに回るなんて……。ふふ、じゃあ私も飯村くんに繋ぐわ。『空間爆発【小】』」


 拓海に続いて朱音がロードコボルトの足元を爆発させて体勢を崩させる。


「流石だ、2人とも」


 2人のサポートを無駄にしない為にも俺は急いで弓を引いた。


 そしてその矢が当たる直前、戦いは暫く無理だろうと思っていたクロが口を開いた。


「『レベルギフト』。少しでもみんなレベルを上げて……。それで、それで……仲間を死なせる様なスキルを使っちゃう位おかしくなったみなみちゃんを……一緒に助けてください」


 ロードコボルト達が爆散する音が轟くも、クロのか細く震える声は不思議と俺達の元までしっかりと届いた。


「そんな風にクロちゃんに頼まれたら断れないよ」

「助けるというのが何を指すのかは分からないが、俺は元々人を殺す気はない。拘束して依頼を達成するだけだ。まぁ拘束した後佐藤みなみと何を話そうがそれは勝手だがな」

「拓海……この歳の男がツンデレは逆に恥ずかしいぞ。――クロ、佐藤さんは俺の友達でもある。そんな風にお願いされなくても気持ちは一緒だ。さ、ゆっくりしてたらまた何が起こるか分からない。あの階段の先に急ぐぞ。おっとその前に……」


 俺達は元々人間だったダースウルフェンの死体を地面に埋めて、階段を駆け上がった。

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