第38話 卵

 パラサイトワームに初めて遭遇してから数時間、俺達は3階層の探索を開始していた。

 モンスターの数の多さと、階段の場所の分かり辛さ、それに次第に広くなる階層の所為でどうしても時間が掛かる。


 クロのワープゲートには発現させる為の条件があり、それは移動先階層の下りと上りの階段を認知している必要があるというものらしい。

 1階層から10階層はあからさまにそれが配置されていたからクロも問題なくワープゲートを使えていたが、階段の位置の分かり辛い11階層から20階層はそうはいかない。


「――飯村さん、前から3匹来ます!」


 クロの報告を聞き、弓を引く。

 寄生されているモンスターを殺してもクロの時と同じでそのダメージは寄生虫には入らず、余計に多く弓を引かないといけない。

 逆に寄生虫から攻撃しても寄生されている側にはダメージが入らない。

 手数を倍にしないと倒しきれないという点は面倒臭いの一言に尽きる。


「次、右から2匹です」

「次から次へと……ん?」


 再びクロの報告で弓を引こうと、右方向に視線を移す。

 すると、その先にいたモンスターに異変が見えた。


「頭が……」


 ヘルマンティスが2匹で頭が4つ。

 一方の頭がもう一方の頭をかじっているがこれって多分……


「成長したパラサイトワームが寄生したモンスターに成り代わろうとしているみたいですね。ただ、既にパラサイトワームの方が数段上の力がありそうですが……」


 ヘルマンティスに似たパラサイトワームは、ヘルマンティスと異なり目が赤い。

 それにびっしりと肉を食う為の歯が揃っていてその凶悪さを表している。


 ――ぶち、びり、ぐちゅくちゃ


 パラサイトワームは頭を食べ終わると、今度はヘルマンティスの身体を内側から引き裂いてその全貌を露にした。


 隆起した筋肉とヘルマンティスよりも大きく鳴る羽音それにその凶悪な顔が、パラサイトワームからボスクラスの威圧感を放たせる。


 普通の探索者ならこの事態に面倒な事になったと嘆くのだろうが、俺からすれば倒す相手が減った分楽になった気がす――


「ギ、ガガ、グギギ……。ヴヴォエッ!!」


 俺が弓を引こうとすると、パラサイトワームは意外な事に地面に伏して苦しそうに悶えだし、そしてその口から丸い何かを吐いた。


「あれは……。飯村さん! あの丸いもの、急いで卵を射って下さい!」


 ……やっぱりあれ卵だよな。カマキリの卵は確か100匹以上生まれるんだっけか。もしヘルマンティスにその性質があって、それまでも似せているのなら……。

 このダンジョンは俺達が思っている以上にパラサイトワームで満ちているのかもしれない。


 俺はそんな危機感を感じながら弓を引いた。

 矢は卵1つとパラサイトワーム2匹目掛けて分裂しながら飛んでいく。

 パラサイトワームは成長した姿に変化しているとはいえ、今の会心威力があればなんて事はない、はずだが……


――パンッ!パンパンッ!


 パラサイトワーム達と卵に矢が命中。

 心配を余所にいつもの光景が俺の目の前に広がった。


 衝撃波が出ても、周りに固定ダメージが発生しているようすがないところを見ると、この辺りにはもうパラサイトワームはいないみたいだ。


「ふぅ。取りあえずは大丈夫か」

『レベルが195に上がりました。ステータスポイントを6獲得しました』

「レベルアップ……。しかも3も。もしかして孵化前でも生まれてくるはずだったモンスターの数分経験値が貰えるのか――」

「飯村さん! まだ!」

「え?」


 完全に気を抜いていると、パラサイトワームが弾け飛んだはずの場所に卵が……。

 なるほど、モンスターを隠れ蓑にしていたパラサイトワームが今度は卵の隠れ蓑になっているってわけだ。


 ――ぷちっ


 急いで弓を構えると、卵に穴が空いた。

 そしてその穴から数えきれない程のパラサイトワームが姿を現すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る