第37話 危機感
「う、ぐ、うぅぅぅ」
「速い……」
急いで距離をとろうと後方に逃げるが、逃げさせまいとクロは予想以上に機敏な動きでぴったりと付いてくる。
「戦うしかないが……でもどうする」
「ぐうああぁああっ!!」
逃げる事を諦めて立ち止まると、クロの手刀が俺を襲った。
俺はその手刀を具現化した弓で受け止めいなす。
だが、このまま押されっぱなしだといつか俺の方も危なくなってくる。
そうなってくると気は引けるが、無理矢理にでもクロを拘束するしかない。
「痛いだろうけど我慢してくれよ」
俺はクロの手刀を受け流すとその隙に横っ腹にローキックを決めた。
だが――
「いって……」
「ぐうう……」
まるで鉄の塊でも蹴り飛ばしたかのように足がジンジンと痛む。
防御力が高いとは言っていたが、まさかここまでとは。
「ただ、まるでダメージがないわけじゃないみたいだな」
今の一撃のお陰かクロの動きが止まった。
この隙にクロを取り押さえ拘束する――
「飯村さん、対象を、設定から、対象を選んで、それで矢を撃ち込んで、下さい」
「クロ!? お前意識が――」
「早く。今の攻撃で、中のモンスターが驚いている、うちに」
俺はクロに言われ慌てて設定画面を開く。
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ターゲット設定
現在自動選択
飛攻撃スイッチ【ON】
■手動選択
・クロ
・パラサイトワーム
■選択無し
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「強化した魔力矢は、対象以外を無視させる事が、出来るはず。私の中の、モンスターを狙って……撃って下さい」
身体を震わせながらクロは両手を広げて、無防備な状態に。
その様子から身体を自由に動かせる時間は終わりを迎えようとしている事が分かる。
出来る、はず。
確信の無い言葉に弓を持つ手が鈍る。
設定でパラサイトワームを選択してはいるが万が一の場合クロは……。
また自分の周りの人が死ぬ。
まだ知り合って間もないクロだが、家族がいなくなったその日の事を思い出してその姿がどうしようもなく重なってしまう。
「早、く。もう、無理……う、ぐああ」
「くっ!」
俺はパラサイトワームの姿を思い浮かべながら、目を瞑って弓を引いた。
――パン
いつものモンスターが弾ける音。
それが響き渡ると俺は恐る恐る目を開ける。
「飯村さん、ありがとうございます」
「クロ?」
するとそこには地面に倒れ込むクロの姿が。
俺は急いで駆け寄り、そっとクロを抱き寄せる。
「呼吸はある。死んで、ない」
「ふふ、やっぱり大丈夫でした。……あの、えっと、その、そんな泣かないでください。ちょっと疲れただけで」
「え? 俺……」
目元を拭うと手に水滴が。
泣いたのなんていつ以来だろう。
両親の葬式でも泣かなかったのに……。なんで俺こんな会ったばっかりの女性で。
「えっと、それにしても厄介なモンスターでしたね。11階層から20階層までを統括するモンスターはもしかしたらあれを使って、通常湧きのモンスターや人間をコントロール。兵隊の様に扱っているのかも……。えっと、大丈夫ですか飯村さん」
「あ、ああ。そうなると、あれだな。探索者がダメージを受けていない理由っていうのはもしかして……。パラサイトワームに寄生されて兵隊化しているからか?」
「可能性はあります。実際に寄生されて分かったんですけどあのモンスター、パラサイトワームは、身体の中で僅かずつではあるものの成長をしていました。もしあれがより大きく成長すれば、体内から人間やモンスターを食い破ることだって……」
「食い破る!? だが俺の弓ならそんな事になる前に救える事が分かってるんだ。急ぐぞ!」
「はい!」
「……拓海、俺が合流するまで死ぬなよ」
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