第27話 黒い矢

「朱音?」

「私とモンスターの位置を入れ換えたわ!今のうちよ!」


 見渡すとヒューマンスライムは俺の後方遠くに。

 俺とヒューマンスライムが戦っている最中、朱音は俺が劣勢だと悟って急いでこのスキルを有効に発動出来る様に準備をしてくれたのだろう。


 流石アダマンタイトクラスの探索者、機転も利くしスキルも強力だ。


 だがこのまま攻撃をしていてもまた手数が足らずに押し切られかねない。

朱音は今発動したスキルの反動でか、その場に膝を着けているし……


『今のうちに職業進化をしてみてはどうですか?そうすれば初回のスキル強化が無条件で行われますよ』

「そうすれば手数を増やせるか。なら……」


『ステータス』


-------------------------------------

進化可能。以下から進化先を選んでください。

■弓使い【魔弓】

:回復の弓や転移矢等の主に特殊な弓、或いは矢を生成するスキルの取得が可能。

■弓使い【属性】

:炎、水、雷等の属性スキルの取得が可能。属性攻撃への耐性が付く。

-------------------------------------


 ステータス画面を表示すると、一番下に新しい記載が。


「……どっちがいいんだ、これ」

『確か会心と相性がいいのは【魔弓】で、どちらでも魔力矢の強化は出来た、はずです。痛っ……。すみません、ちょっと曖昧で……』

「いや、助かる。それと無理はするな」


 思い出せない記憶に引っ掛かりを感じたのか、またクロは頭に痛みを感じたようだ。

 俺はそんなクロを心配しつつ、弓使い【魔弓】をタップする。


『職業が弓使い【魔弓】に進化しました。全てのパラメーターが上昇しました。発動中のスキルを一度リセット、魔力を回復しました。所持スキルを一括強化しました。スキル:魔力弓を取得しました。魔力を消費する事で弓を具現化出来ます。発動時に消費魔力を設定、その値で弓の強度、攻撃力バフ、発動時間が決定されます。スキル:回復弓を取得しました。魔力弓発動時に発動可能。発動中は回復量を選択して自己のHPを回復出来ます。この時回復量によって魔力を消費し、それとは別に発動中も魔力を消費します』


 新しいスキルは気になるが、取りあえずは魔力矢の準備だ。


「魔力消費、70」


 強化された魔力矢を発動すると、真っ白だった矢が黒色に変色し、禍々しさと共に頼もしさを感じさせてくれる。


「ベボ……」


 その間にヒューマンスライムは周りの金色スライムを吸収し、身体を大きくさせていた。

 無理に突っ込むのではなく自分の強化に努める辺りが人間的だ。


「――ベボアアアアアアアア!」


 一瞬の静寂の後、ヒューマンスライムは全身から再び無数の触手を生み出して襲い掛かってきた。

 復活用に金色スライムを残していないところからも本気が伺える。


「さあどれぐらい魔力矢は強化されたのかな……」


 俺は期待と不安が入り混ざる感情をコントロールしながら、落ち着いて弓を引いた。


「速い、それに……」


 黒い矢は今までの白い矢よりも桁違いに速く、線でしか捉えられない。

 そんな高速で飛んでいく矢は花が開くように分裂、計10本の線が次々に触手を破壊していく。


「ベボ!?」


 俺の攻撃が予想以上の数だったのだろう。ヒューマンスライムは少し驚いて見せた後、直ぐ様触手を盾に突っ込んできた。

 このままでは勝てないと踏んでの捨て身の突進か。


 だが……


「折角ここまで来てもその身体じゃもうどうにも出来ないだろ?」

「ベ、ボ……」


 10本に分裂する魔力矢を連射し、触手は全破壊。

 それでもなんとか俺の元にたどり着いたヒューマンスライムだったが、その身体は最早ネズミサイズ。

 新しく生み出す触手も小指程の長さで俺には到底届かない。


「でも念には念を、か」


 俺はヒューマンスライムが一撃でないと倒せない可能性等も考慮して、たんまり溜まったステータスポイントを会心威力に振り、ヒューマンスライムに弓を向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る