第20話 クロ
触れてる筈なのに触感がない。
手を通した先は今いる場所よりも寒く、冬の終わりくらいの気温を想像させる。
ただ魔力を度々吸収して身体が火照っているからなのか、それが妙に気持ちよく、俺はその先の空間に誘われる様にしてワープゲートに通り抜けた。
「……暗いな」
真っ暗というわけではないが、ここで戦うとなれば一抹の不安を覚える程度には暗い。
理由としては照明の代わりとなる『光石』の数が通常の階層に比べて少ないから。
この『光石』というのはダンジョンでしか機能しない特殊な鉱石で、持って帰っても只の石にしかならず買取もされない為、あれが外でも使えればと殆どの探索者が常々思っている。
『――誘いを受けてくれてありがとうございます』
「クロ、ここにいるんだよな? それでも直接は話せないのか?」
『はい。喋る事は出来ません。口が動かせませんから。手間かも知れませんが、少し奥の広間まで来ていただけませんか?』
「分かった」
俺は頭に流れるクロの声に従って、曲がりくねった道を少し奥に進む。
すると、次第に道の先から光が射し始め、俺はその光の先に足を踏み入れる。
『初めまして。改めまして……私はクロ。このダンジョンにて復活を待つ者。そして……多分このダンジョンのシステムに関与する者。未だに記憶が戻りきっていない身な為、自己紹介はこのくらいでいいでしょうか?』
クロの自己紹介があまり頭に入ってこない。
というのも大量の光石で照らされた巨大な氷の柱と、その中で寝たように目を瞑っている異様に耳の長い女性が俺の目に映ったから。
世界には様々な人間がいるが……。あの女性は、クロは……。
「あ、ああ。俺は飯村一也。えっと、聞きたいことはいくつかあるが、そのお前、クロは人間じゃないよな?」
『はい。私はエルフです。そこまで珍しい種族ではないような気がするんですけど……。すみません、ちょっとまだ』
「すまん。無理に思い出さなくていい。それに、種族が違ってもこうして意思疎通を図れるんだから問題は無いよな」
『ご理解頂きありがとうございます。それと、この度は貴重な魔石を捧げて頂きありがとうございます』
「気にしないでもいい。別に俺は直ぐにあれが無ければ困るってわけでもなかったからな」
『それでもありがとうございます。貴方のお陰で私はこうしてはっきり意識を保つ事が出来ています。それまではずっと夢の中の様で、頭もずっとぼんやりとして胸のつっかえもあって……。こんな状態ではありますが今は清々しい気持ちなんです』
「それは良かった」
『それで出来る事も色々と増えたので私からあなたにダンジョンに関する事でお礼をしたいと思ったんですけど……。どうやらそれが私の責務に繋がってる様なんです』
確かさっきの自己紹介でダンジョンのシステムに関与する者って言ってたな。
フェーズ2になってクロの復活用の魔石の吸収が始まって……。
そんな存在の責務っていう事は……。
「もしかしてこのダンジョンの異変を正常に戻す。それがクロの責務で、その為に……まぁいい言い方をすれば人間をサポートすることが必要、悪い言い方をすれば人間を利用しなければならないってところか?」
『……その通りです。でも純粋なお礼の気持ちが無いわけではありません。これは本当ですよ』
「別に責める気はないから安心して。こっちはこっちで魔石を捧げる理由についてやましい気持ちもあるし……」
『ふふ。なら気にせず私はあなたを、飯村様が更に強くなれるようにサポートさせて頂きます』
「具体的には?」
『弓使いのスキルについては知識がありますからそれをお伝えさせて頂きます。そしてレベルアップに関してなんですけど、私は各階層を覗き見る事が出来ます。ですので経験値の多い金色のモンスターの出現場所やその種類などをお伝え致します。後は決まった条件ではあるもののワープゾーンを発現させられる為移動の際は協力させて頂けたらと思います』
「のぞき見が出来る、か。因みに金色の管みたいなモンスターはいるか?」
『それなら――』
「どうした?」
『人間が複数。またダンジョンに入ってきました。しかも凄い勢いで』
とうとう朱音達がやって来たか。
まだ2階層にいる事を馬鹿にされなければいいが……。
「状況が変わった。俺は直ぐに元の階層に戻る。ワープゲートはまだあるか?」
『それがワープゲートはディレイが長くて……しばらく出せないです』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。