第9話『ドアのささくれを直した』

ピボット高校アーカイ部     


9『ドアのささくれを直した』





 ドアのささくれを直した。



 ほら、うちのトイレのドア。


 お祖父ちゃんが二度もひっかけて、セーターに綻びを作ってしまった。


 ホームセンターでパテを買ってきて、ささくれ部分を削ってパテを埋めておいたんだ。


 説明書には24時間で切削可能と書いてあったけど、一週間空けた。


 パテは収縮するし、24時間では少し柔らかいので、そのまま整形したら数日で他の所よりも痩せてしまって跡が残る。パテの堅さがドアの素材と同じ硬さになるのを待ったんだ。


 デザインナイフで粗々に削って、さらに二日置い後、サンドペーパーをかける。


 周囲と面一(つらいち)になったところで、クレヨンで木目を描く。


「ほう……こういう補修をやらせたら、お祖父ちゃんより上手いなあ」


「アナログだからね、あ、お茶淹れるよ」




 仕事場にお茶を持っていくと、すでにお祖父ちゃんは休憩モードで動画を見ていた。




「街の人が、こんな動画を作ってるよ」


 お祖父ちゃんが示したのは、フリー動画の上にお話を載せたものだ。


「桃太郎だよね……」


「うん、パッと見面白そうなんだけどね……」


 お茶を飲みながら横に流れる物語を読んでみる。


 あ…………


 それは、先輩と飛び込んだ桃太郎の世界だ。


 最初のお婆さんが桃を拾わないものだから、下流のお婆さんが拾って家へ持って帰ると、中の桃太郎は腐っていたって。あのパロディー。


 アクセス数もいいね!も街の人口よりも多い。


「次が、これ……」


「ああ……」


 次は、誰にも拾われずに桃は流れ去っていくというもの。


 見かねた通行人が「なぜ拾わないんですか?」と聞くと、こう応える。


「桃太郎はつまらん、育てても鬼ヶ島に鬼退治にいくだけじゃ。話し合いもせずに、一方的に鬼を懲らしめて、こいつは軍国主義じゃ。ロシアと同じじゃ。だから拾わん、拾ってやらん」


「アハハ、そうなんですか……」


「おい、通行人」


「笑っとらんで署名せい」


 お婆さんはズイっと署名のバインダーを押し付ける。


 バインダーの署名用紙には『桃太郎を二度と戦場に送らないための請願署名』と書いてある。


 先輩の時と同じだ。


 でも、通行人はサラサラと署名して行ってしまった。


「この通行人、次からは道を変える」


「え、そうなの?」


「いや、お祖父ちゃんの想像だけどな。たぶん、そうだ」


 そう言うと、お祖父ちゃんはボールペンのお尻でキーボードを操作して、一つのブログに行きついた。


「『シンおとぎ話の会』か……」


「まだ新しいんだろうね、シンなんとかっていうのはゴジラからだからね」


「シンというのはパロディーとは違うと思うんだがね……」


「お祖父ちゃん、そのボールペンはメイドインどこだと思う?」


「百均で五本百円だったからC国製だろ」


「じゃあ、先っちょのボールはどこ製?」


「日本製だろ」


 え、知ってる?


「ボールペンのボールは高い精度を求められる。こいつがいい加減だと、インクが出なくなったり、逆にダダ洩れになったりするんだ。これが安価に大量に作れる国は、そう多くは無い」


「うん、そうだね」


 お祖父ちゃんは先輩並みだ、いや、先輩がお祖父ちゃん並なのか(^_^;)?


 数日すると『シンおとぎ話の会』の動画もブログもアクセスは頭打ちになっていた。




☆彡 主な登場人物


田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部

真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る