第4話『さよなら三角また来て四角』

ピボット高校アーカイ部     


4『さよなら三角また来て四角』





 え……着替えるんですか?



「言ったろ、部活中は着替えるって。今日から正式な部活が始まるんだ。鋲も着替えなくちゃならんだろ」


「えと……だって、これセーラー服ですよ(^_^;)」


「あ……トランスなんとかで五月蠅いんだったな。じゃ、選ばせてやる……どっちにする?」


「じゃあ、学生服の方で」


「そうかぁ……ほれ」


「なんで、つまらなさそうにするんですか(^_^;)」


「いや、セーラー服の方が似合うと思っていたんでな。ま、気にするな」


「じゃ、着替えてきます」


「ここで着替えるんだ。部活中は部室を出てはいかん」


「え、そうなんですか?」


「ああ、集中力の要る部活だからな」


「ええと……」



 部室を見渡す……教室一つ分の大きさはあるんだけど、身を隠すところがない。



「手間のかかる奴だなあ……よし、こうすれば恥ずかしくないだろ」


 段ボールの中から唐草模様の風呂敷を出したかと思うと、先輩の制服をかけたマネキン人形に持たせて目隠しにした。


「えと……ま、いいや」


 覚悟を決めて目隠しの陰で着替える。学生服なんて着たことが無いから、首元の窮屈さが馴染めない。


「ほう……着やせするタイプなんだな」


「え?」


「すまん、そこの鏡に映るもんでな。あ、向こうを向いていよう」


「……(////·-·´///)」


 さっさとズボンを履き替えて、上着を着る。


「着替えました!」


「よし……なんだ、ちゃんと襟を留めんか」


「留めるんですか?」


「当たり前だ、詰襟を留めないのは、制服のリボンが無いのと同じだぞ」


「……えと……あれ……」


 初めての詰襟なので、なかなか留まらない。


「不器用だなあ……」


「え……あ……」


 先輩が寄ってきて留めてくれる、鼻息のかかる近さ! シャンプーの匂いとかするし!


「よし、これでいい……顔が赤いぞ」


「あ、アハハ……」


「そうか、こんな近くに異性に迫られるのは初めてなのか」


「あ、その……」


「わたしも不器用なんでな、ま、鋲も慣れろ」


「はい」


「じゃ、さっそく始めよう。そこに座ってくれ」



 先輩は、部屋の隅にある向かい合わせの椅子を示した。


 座ると、足もとが明るくなる……え、魔法陣?



「最初は目が回るかもしれん、目をつぶってもいいぞ」


「はい」


 素直に目をつぶると、足もとがグラッとした。


 グィーーーン


 遊園地のコーヒーカップが回るのに似ているけど、そこまでは激しくない。


「よし、目を開けていいぞ」



「…………ここは?」


「始まりの地だ」



 オフホワイトというかライトグレーというか、目に痛くない程度の白い世界。何も描いていない液タブの画面的な感じ。


「ええと……そこだ」


 先輩が少し離れたところを指さす。


 何もないと思っていたら、音もなく大きな横になった三角形が現れた。


「よっと」


 先輩が小さく蹴ると、三角は膝の高さほどに浮きあがった。


「なんですか、この三角は?」


「アーカイブのゲートだ。しばらく使っていなかったので三角になってしまったんだ……そっちの方を持ってくれるか?」


「あ、はい」


 先輩と二人で三角の一辺を持つ。


「暖かい」


「うん、起動し始めてるんだ。だが、入り口として機能させるには、もうひと手間いる。わたしの合図で引っ張ってくれ。リヤカーを引っ張るくらいの力でいいぞ」


「リヤカーなんて曳いたことないです」


「えと……じゃ、適当にやれ、いくぞ……イチ、ニイ、サン!」


 ギイイ…………ポン!


 軽いショックがあって、三角は変形した。


「四角になりましたね!」


「ああ、これで、しばらく置いておけば安定する。今日はここまでだ。じゃ、戻るぞ」


「あ、はい」



 来た時とは逆の順序で部室に戻った。



「あの三角と四角はなんなんですか?」


「言ったろ、アーカイブへのゲートだ」


「はあ……」


「さよなら三角また来て四角だ」


「は?」


「分かりやすいだろ」


「はあ」


「じゃあ、今日はここまでだ。わたしは後片付けするから、先に帰っていいぞ」


「あ、はい」


―― え、これでおしまい? ――


 思ったけど、口にしたら、また変なことが起こりそうなので、大人しく校舎の外に出る。


「ええ?」


 

 ほんの十分ほどしかたっていないと思っていたけど、もう西の空に日が沈みかけていた。




☆彡 主な登場人物


田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部

真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

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