第2話『初めてのアーカイ部』

要高校あーかい部     


2『初めてのアーカイ部』  





 へえ、二回モデルチェンジしてるんだ……。



 玄関わきのショーケースには歴代の制服が飾ってある。


 元々、要高校は女子高だったから、共学になる前の2001年までは赤線三本のセーラー服。


 その横には二組の男女の制服。


 二十年続いた制服は、今年から改定されて、その横に並んでいる。


 以前の共学制服は、特徴のない紺のブレザー。


 この四月からの制服は、ちょっとカッコいい。


 女子のブレザーは一見変化がないみたいなんだけど、微妙にウエストが絞ってあって、ボタンの位置も二センチほど高い。そのぶん襟元がつぼまってるんだけど、シャッキリしていて、スマートで脚が長く見える。


 男子は、ほとんど詰襟なんだけど、襟が低いのと首元の角を丸くしているので、雰囲気が柔らかい。


 そして、一応男女の別はあるけど、トランスジェンダーへの配慮で、性別にかかわらず、どちらを着てもいいことになっている。でも、入学式で男女逆の制服着用者は見なかった。


 校舎も五か年計画の改築が完成して、まるで新設の学校に入学したみたいだ。


 お祖父ちゃんは、古い学校だ的に言ってたけど、自分の記憶にある昔の印象を言ったんだろう。


 これは嬉しい思い違い。やっぱり、施設とかは新しい方がいいよ。



 どこの学校でも、そうなんだろうけど、部活の勧誘はすごかった。


 みんな部活のユニフォームを着たり、部活の道具を持って必死に勧誘していて、見ている分には楽しい。


 こういう勧誘では、吹部とか軽音とか演奏のできる部活はアドバンテージが高い。勧誘も、そんなにガッツイタ感が無いので、それぞれ一曲聞いてしまった。


 ダンス部は、よくスタミナが持つなあと感心。だけど、よく見るとメンバーは三班あって、交代しながら踊っている。


 まあ、全員踊り出したら、ピロティーの半分がダンス部が占領してしまうだろう。


 驚いたのは、コスプレ同好会。


 コミケとかは行ったことないけど、SNSで見たコミケみたいなコスを着て、みんなが写真を撮っている。


 メイド服とか巫女服はどうってことないんだけど、ハイレグの魔法少女とかサキュバスとかはどうなんだろね(^_^;)。


 もう十回くらい「うちの部活に!」って迫られたけど「もう決まってますから(^_^;)」というと残念そうな顔をされたり、早まっちゃいけない的なことを言われたり「え、どこに決めたの!?」と迫ってこられたり。


「アーカイ部です」


 そう答えると「え、それなに?」って顔をされる。茶華道部の三年生だけが「アーカイ部じゃ仕方ないね」と返された。



 それで、部活の勧誘広場(正門からピロティーにかけて)を離れて、部室があると言われている旧校舎を目指した。


「え…………?」


 旧校舎は、ホームページの写真とかで見た旧校舎ではなかった。どう見てもそのもう一つ前の木造校舎。


 旧々校舎と言った方がいいような、明治村とかに似つかわしい建物だ。


 それも、中央部分と思われる玄関を含んだ部分だけが残されていて、いかにも文化財という感じ。


 玄関も廊下も電気が点いていない。階段の踊り場の窓からこぼれてくる明かりが唯一で、玄関に足を踏み入れただけなのに、ちょっと閉じ込められた感がある。


 ギシ……ギシ……


 恐るおそるという感じで足を進めると、階段の横、一つ扉を隔てて『亜々会部』の気の札がかかっている。


 トントン


 ひょっとしたら留守かと期待したけど、しっかり返事が返って来る。


「入れ」


 女の人の声だけど、特殊部隊の女性隊長を思わせるような厳しい感じ。お祖父ちゃんならララ・クロフト、いや、攻殻機動隊の草薙素子って言うだろう。


 覚悟を決めてドアノブを握る。


 ギーー


「失礼します」


「新入生の田中鋲だな、話は聞いている」


「あ…………」


 顔を上げて驚いた。薄明りの部室の奥、肘掛椅子をクルリと回して、こちらを向いた女子生徒。


 コンマ一秒で、ロン毛美人だと知れるんだけど、この人の制服はショーケースで見たばかりの赤線三本のセーラー服だ。


 思ったとたんに、頭がクラっとした……。


 


 

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