第296話 決着
ついにカケラがドクター・シータの体を吹き飛ばした。
全身から放出される紅いオーラは炎よりも
肉厚極太ゆえにドクター・シータの核は崩壊を免れたが、もはや彼は肉片一つも動かせないだろう。
ロイン大将もモック工場長もサンディアも手を地に着いて息を切らしている。
カケラのほうも肩で息をしているが、その紅い眼光が捕らえたのはドクター・シータの核だった。
トドメを刺す気かもしれない。
「させないよ」
コータがドクター・シータの核を自分の手元に瞬間移動させた。カケラの視線がコータに向くと、コータは慌ててドクター・シータの核を持ったまま自身も瞬間移動して身を隠した。
「みんな続けぇええ! エストとエアの邪魔をさせるなぁああああ!」
ダースがカケラに行動の隙を与えまいと、
影から槍状の触手を無数に出現させ、それをいっせいに絶え間なくカケラへと突っ込ませる。カケラはそれをことごとく手刀で消し去る。
いちおうはカケラをその場に釘付けにしているが、このままの状況が続けばカケラは回復してその場を脱するだろう。
そこへ新たな追撃が入る。レイジーによる光線攻撃だ。
五本の指から散弾のように大量の光線を連続して放つ。
さすがのカケラも二本の手では闇と光の同時攻撃には対応しきれない様子で、ブラックボックスな部分がある闇を優先して消し、光線のほうは直撃を甘んじて受ける。
しかし頑強なカケラの体はそれを耐えている。
「イル、やるよ!」
「うん、ハーティ!」
ハーティとイルが並んでカケラに両手をかざす。
そして、進路にあるものを焼き尽くさんばかりの熱風がカケラの方へと飛んでいく。
「
ハーティとイルの合体奥義が炸裂し、カケラが熱風を嫌って目を閉じた。
その瞬間、ダースの黒い槍がカケラの手刀をかい
黒い槍はカケラの体を通り抜けて、そのまま下方へと飛んでいくと、地上にある彼女の影に突き立った。
「
カケラの影に闇の槍を突き刺すことで、カケラをその場から動けなくする魔法だ。
しかし、カケラも影の魔法を使えるらしく、自分の影の手が黒い闇槍を掴み、自身の影から引き抜こうとしている。
「くっ、強い……」
「ダースさん、手伝います!」
コータがドクター・シータの核をどこかへ隠して戻ってきた。
位置の魔法でダースの闇槍をその場所に固定する。
二人がかりの意志がカケラの力に
「いまよ!」
ミューイが叫び、メルブランがそれに呼応する。
「チェーンソードとチャクラムに付与。《絶対命中》、《絶対切断》、《絶対耐久》」
メルブランの二つのチャクラムがカケラの左右の腹部に命中し裂傷を作る。そして、カケラよりも上空から一直線に伸ばしたチェーンソードがカケラの胸を貫いた。
だがカケラは胸のチェーンソードを乱暴に引き抜くと、傷の部分を赤い霧にして体を
怒りの視線がメルブランへと向けられ、両目から赤く
それはわずかに逸れ、メルブランの頭上を通りすぎた。
「いまの声はおまえか、ミューイ・シミアン」
ミューイはカケラの声でメルブランが上方にかわすという情報を届けたのだ。
カケラは時間操作能力が使えないから、以前みたいに未来の自分の声を聞けないはずなのだが、その声が自分の声だったことと、何度もダメージを負って冷静さや集中力が少し欠けてきていることも手伝って、つい声に反応して対象の上を狙ってしまった。
次はミューイとメルブランに確実に攻撃を当ててくるだろうから、そうさせないためにも攻撃を絶やしてはならない。
ミューイがさらにカケラの両耳で爆音を響かせ集中力を
カケラはムニキス効果を付与した手のひらでビームを受けとめるが、ビームはなかなか消えない。レイジーも全集中力を使ってビームを生み出しつづけているのだ。
見た目としてはカケラがレイジーのビームを単に受けとめているように見えるが、実際にはビームの発生と消滅が同時に長時間起こりつづけており、レイジーの消耗はとてつもないものとなっている。
「行きますよ、二人とも」
「はい!」
「はいっ!」
リーンの呼びかけにルーレとリーズが答える。
まずルーレが巨大な氷を生成し、リーンがムニキスでそれを無数に斬りつけて粉砕する。そしてリーズが育てた暴風でそれらをとカケラへと飛ばす。
ハーティとイルの熱風とレイジーのビームが切れた直後に、リッヒ家三人の合体技である氷の嵐がカケラを直撃する。
カケラのムニキスは、風は消せても風に乗った氷は消せない。ムニキスは魔法のリンクを切る効果なので、発生してしまった氷はあくまで物体として存在しているからだ。
いくつもの尖った氷がカケラに直撃する。カケラの体は硬いが、不快感とダメージは多少なりともあるはずだ。
リッヒ家三人の攻撃はまだ終わらない。
氷の嵐が終わらぬうちに、ルーレが小さい山ほどありそうな超巨大な氷の剣を創造し、それを持ったリーンがリーズの風に乗ってカケラへと突っ込む。
そしてカケラの頭上へと思いきり巨剣を振り下ろした。
「
リッヒ家合体奥義の巨剣をカケラは拳をぶつけて粉みじんに粉砕した。
が、その中にあった神器・ムニキスをリーンが超振動させてそのまま振り下ろし、カケラの脳天へと直撃させる。
しかも肉薄しての攻撃なので、白いオーラも同時にカケラへと直撃しており、カケラは頭から股下までを完全に切り裂かれ真っ二つとなった。
いや、斬られるよりも先に体を半分に割るように霧化していた。
だが白いオーラが近くにあるせいで、二つの体をくっつけるのに時間がかかっている。
リーンはさらに追撃を加えようとカケラを見上げた。
カケラもまた攻撃的な視線でリーンを見下ろしていた。
二人の視線が一瞬かち合ったが、リーンはカケラの狂気の圧に呑まれてそのまま落下してしまう。
リーンをリーズの風が受けとめ、自分たちの元へと運ぶ。
カケラがどうにか体を修復した瞬間には次の攻撃がきていた。
今度は水の攻撃だった。
ダースの作ったワープホールから出現した水は巨大な龍の形をしていた。
水が龍の形をすること自体に大きな意味はないが、盲目のゲンが気合を込めている表れだ。それが大口を開けてカケラへと突っ込む。
カケラはその迫力に気圧されることはなかったが、場所を固定され体の修復に精神力や体力も削がれていてムニキスを発動させることができなかった。
カケラは完全に水に包まれた。
カケラは呼吸を必要としないが、巨大な水に圧縮の力が加わり、カケラを強く締めつける。
そして、その水にはもう一つの意味があった。
「それじゃあ、行くよ!」
キーラのその言葉はカケラへ向けられたものではない。俺とエアに向けられたものだ。「時間稼ぎは次が最後だから、早く準備完了させてよね」という意味だ。
キーラもずっと溜めていた。
ほぼ俺やエアと同じタイミングで溜めはじめ、それをここで放つのだ。
「
極大の閃光が天より放たれ、空気を絶縁破壊するすさまじい音が鳴り響く。
超極太の雷がカケラに落ちている。落ちつづけている。
そして、カケラを包む水はカケラの体内へも浸入し、カケラの体の内外からカケラを全力で感電させる。
キーラの最大の電気魔法。
以前、俺もキーラと戦ってこの技を受けたが、あのときよりも威力が増している。そして盲目のゲンによるサポートで技はさらに強化されている。
なんならこの攻撃でやられてくれてもいいのに、とさえ思える威力だ。
しかし、カケラはそれでも耐えている。
人間は感電したら体を自分の意思で動かすことはできないが、カケラは顔を苦痛に
完全にカケラを押さえ込んでいるが、キーラの表情からしてこの状況は長くは続かない。
だが、ついに、ようやく、俺とエアも準備が整った。
カケラも俺たちの準備が整ったことを悟ったらしく、さすがにマズイと思ったか、最後のあがきを見せた。
「はぁあああああっ!!」
カケラの全身からすさまじい量の紅いオーラが噴出した。
理屈なんか無視したそれは、その存在の圧力だけで彼女を包む水も電気も消し飛ばした。
しかし遠方にある影に刺さる闇槍だけはまだ顕在だ。気合を振り絞り両手の影で槍を掴み、どうにか影から引き離す。
それでもダースが健闘して闇槍が影に刺さろうと動きつづけるので、そうさせまいとするカケラの両手を塞ぎつづける。
そんなカケラも顔には不安げな色を見せており、その視線は俺に向けられていた。
「馬鹿な……。なんだその白いオーラは!」
俺とエアの頭上には巨大な白い塊ができていた。巨大で高密度な回転する空気玉。
空気の塊が白いのは、世界中を覆っていた勇気の白いオーラをその一点に集めた結果だ。
そして、ここにいる俺たち全員の白いオーラをもそこへ集束させている。
この白いオーラが確かに勇気の白いオーラだとカケラにも認識させるために、俺はカケラに丁寧に説明してやる。
「もう一度教えてやろうか。オーラには魔法も物質も干渉できないが、概念として勇気に満ちたこの雰囲気、つまり概念的な意味での空気を概念化魔法でひっぱってくれば、白いオーラも間接的についてくるんだ。全世界から集めるのにだいぶ苦労したぜ!」
これから攻撃に移る。
頭上に浮かぶ巨大な回転空気玉を、俺とエアは二人の正面にくるように移動させ、そしてそれをどんどん小さく圧縮し、オーラを濃縮していく。
最終的にバスケットボール大ほどの大きさまで小さくなった。
カケラはまだその場を動けないようだ。
そしてついにその場から動くことを
「いくぞ、エア!」
「うん、エスト!」
いまだ感覚共鳴でつながっている俺たちに、息を合わせるかけ声は必要ない。しかし声を出すことで気合を込める。
そして二人の声が同時にそれを叫ぶ。
「最終合体奥義、ワールド・エア・シュート・ウィズ・ブレイブ!!」
白く輝く玉からすさまじい高密度エネルギービームが発射された。重要なのは白いオーラのほうなので、空気は絶対化していない。
白いオーラで白く染まった空気がエアに直撃する。
カケラは両手を前にかざし、それを受けとめている。
もはやそこにはムニキスの力はない。しかも彼女はさっき大量の紅いオーラを放ったばかりだ。カケラからは紅いオーラすら出ていない。
あとはカケラの残りの精神力と体力を勇気の白いオーラで削りきれるかどうかだ。
「うおぉおおおおおおおおおっ!」
「はぁああああああああああっ!」
「ぐぬぅあああああああああっ!」
俺、エア、カケラが三者三様に気合を込めて叫ぶ。
白いオーラを直接ぶち当てているのに、ここまで耐えられるとは想定外だ。
だが、負ける気はしない。
いまのこの攻撃は、俺とエアだけではない。ここにいる全員がつなぎ、ここにいる全員と世界中の勇気が込められた一撃なのだ。
たった一人の頭のおかしい奴に負けてたまるか。
「いぎぃいいいいいああああああああ!」
「ああああああああっ」
「おうりゃああああっ」
そして、空気とともに白いオーラが爆散した。
もはやこれ以上はないという攻撃にカケラは耐えたのか。
爆散する白いオーラの隙間から……赤が見えた。
カケラはまだいる。
頭はうな垂れて両腕もダランと垂れているが、彼女はいまだそこに顕在している。
カケラがゆっくりと顔を上げながら、力なくも確かに微笑を浮かべた。
勝利を確信して舌なめずりするかのように。
しかし、カケラの顔は刹那のうちに
まだ俺の攻撃は終わっていなかった。
俺はエアを残し、一人カケラへと突っ込んでいく。
右手の拳を構え、そこに先ほど爆散した白いオーラを再び集め、凝縮していく。
「おい、カケラ! 世界中からありったけ集めたおまえの苦手なものを思いっきりぶち込んでやるぜ。これは世界でいちばんゲスい攻撃だ。くらえ、ゲス・パンチ!!」
余すことなく白いオーラを集めて拳に宿らせた俺は、白く輝くそれを思いっきりカケラの腹に打ち込んだ。
「うおぉらああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
カケラは声もなく、腹を中心に崩壊するように消えていき、最後には完全に消滅した。
消える途中、カケラの意識が切れてセクレの支配も解けたのが分かった。
だから超絶必殺技 《
これで完全勝利だ。
「決着!!」
最後に思いきり叫ぶ。
これまでにも何度かこうして勝利宣言をしたことはあったが、今回ばかりはただのキメ
概念化魔法 《決着》。
これは勝利を確定させる空気、つまり雰囲気を作るということ。
これにより、実はカケラが生きていましたとか、復活してまた敵対しますとか、そういう余地をいっさい生じさせないための魔法だ。
しかしそれを認識しているのは俺だけで十分だ。
いまはもう感覚共鳴も切れ、この場にいる全員が俺の勝利宣言に酔いしれるように歓声をあげている。
俺たちは本当に紅い狂気・カケラに勝利したのだ。
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