第257話 カケララ戦‐シミアン王国④
コータの条件転移の魔法はまだ継続している。
カケララのほうからコータへ近づいた場合、コータの体は自動で離れた位置に転移する。
それはカケララも分かっていて、怒っていても思考は冷静だった。すぐに飛びかかってはこない。
カケララは真紅の大鎌を手元に生み出し、それを掴んでグルグルと振りまわしてから肩に担いだ。ブンブンという
「マジか。物質の創造までできるのか……」
「あっちの世界では基本よ」
あっちとは神の世界のことだろう。
少なくともコータの記憶にある前の世界では、物質の創造どころか魔法も存在しなかった。
「リーチを伸ばしたところで、それが届くほど近づけはしないよ」
そう言ったコータの
対するカケララは眼に殺意をたぎらせたまま笑った。そして紅い大鎌をブンと縦に振ると、円弧状の紅い光が鎌の刃から放たれてグルングルンと回転しながらコータへと飛んだ。
「うわっ、あぶなっ!」
コータは瞬間移動で紅い刃をかわしたが、すでにカケララは第二撃を放っていた。しかもかわした紅い刃も円弧を描きながらコータを追ってくる。
「まさか……」
「そうね。どんどん増えていくわよ」
「だったらこれも、自動転移で……」
「ふふっ、それは無理ね。だって、あなたがその紅い刃を理解しなければ、魔法の対象にすることはできないもの」
「だったら……」
コータは再びカケララの背後へと瞬間移動しようとした。
しかしその瞬間に強烈な寒気が背筋を駆け抜けた。直感的にそれが悪手だと分かった。
カケララは未来が視えるのだ。コータから近づいたところを狙われるのは間違いない。
そうやって
「ほらっ、これで五つ目!」
コータはとにかく紅い刃から距離を取るために瞬間移動した。
移動先はカケララの向こう側。紅い刃が自分を追いかけてくるのなら、それを利用して間にいるカケララを攻撃できるのではないかと考えた。
実際、紅い刃はカケララを避ける様子もなくコータへと直進してくる。
「おっ!」
紅い刃がカケララに直撃した。
いや、通り抜けた。そのままコータを狙って紅い刃は速度を増しながら飛んでくる。
「無駄よ。それは狂気の概念的な刃だもの。私へのダメージになるはずないじゃない」
「ずるい!」
「案外、あなたも平気かもしれないわよ。試してみれば?」
それは罠か冗談か。
だがもしもこれが思ったままを言葉にしたのだとしたら、カケララはコータが紅い刃に触れてどうなるかを知らないということになる。
それが分かっていて紅い刃の攻撃を繰り出してきたということは、コータに防戦させて攻撃頻度を減らしたかったということではないか。
コータの魔法は使い方しだいでカケララを倒すことが可能ということになる。
「はい、六つ目、七つ目」
カケララは大鎌を軽々と振りまわし、二つの紅い刃を追加した。
「これは……」
コータの思考の限界が近い。
瞬間移動を連続でおこなうには、移動先で瞬時に次の移動先を決める必要がある。
それはページがバラバラのパラパラ漫画を一回流し見て並べなおさなければならないようなもので、相当の集中力が必要となり精神の消耗が激しい。
しかもカケララが次の紅い刃を放つために大鎌を振り上げている。それをすぐに振り下ろさないということは、未来視で移動先を読み、コータの移動先に向かって放つということだ。
しかしコータは瞬間移動するしかない。速度が増している紅い刃をかわすために。
「くっそぉおおおっ!」
そしてコータは瞬間移動した。
その移動先は紅い刃に囲まれていた。
徐々に追い詰められていて逃げ場がなくなっていたが、これは誘導されていたのだ。
八つの紅い刃が全方位から迫ってくる。コータはその紅い刃に視線を奪われていまっていて、もう瞬間移動はできない。
――シュンッ!
斬られた、とコータは思った。
だが四つの紅い刃が二つに割れて消滅した。
「こっちよ!」
耳元で声がしてそちらに振り向く。声はすぐ近くから聞こえたが、その主は遠く地上にいた。
ミューイと、その隣に騎士団長がいる。ミューイが音の魔法で声を届けたのだ。
コータはすぐさま二人の近くへと瞬間移動した。
追撃してくる四つの紅い刃は、騎士団長のチェーンソードがすべて切り裂いた。
「あら、どうして狂気の刃が斬れたのかしら。へえ、そう、なるほど。《虚実切断》を付与しているのね」
未来視で質問の回答を現実よりも先に聞いたのだろう。騎士団長が答える前にカケララはそれを見抜いた。
そして《虚実切断》の効果も理解している。《虚実切断》は、実態のある物質だろうが実体のない概念だろうが何でも切断するというものだ。
得体の知れない紅い刃を壊すための付与としては、とっさのことながら英断だった。
「助かったよ、二人とも。もう治ったの?」
ミューイの王家の執務着は血まみれだし、騎士団長の騎士服の腹部には大穴が開いているが、一見すると外傷はもう消えているように見える。
「ぜんっぜん! でも外からすごい音と振動が伝わってきたから、慌てて駆けつけたのよ」
それはカケララにパイルドライバーをしかけたときの衝撃だろう。
それを自分がやられていたと思われたのはコータにとって心外だったが、実際にそのあとピンチに陥ったため、結果的には助かった。
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