第254話 カケラ戦‐支配からの脱出
盲目のゲンが創った水の壁が空気の刃を
第二波の空気刃がそれを打ち崩したときには、エアを吸い込んだワープゲートが閉じたところだった。
「ごめんなさい。擬似共鳴はここまでみたい」
いまの俺は言葉を発することができないが、エアの判断に心の内で「それでいい」とつぶやいた。
カケラが俺の心を読んでいることを見越して、俺はカケラに声を使わず語りかける。
(おい、感覚共鳴はなくなった。もう妥協しなくてもいいだろ)
(馬鹿ね。それだけ嫌がられると、むしろやりたくなっちゃうじゃない。
カケラは俺の脳に直接答えを返してきた。俺の体の自由はまだ返してくれない。
それと、さっきカケラが口にした「やっちゃったねぇ」が気になる。それはさっきの危機のことで、みんなの頑張りでカケラの知る未来を変えられたのか、それともまだその未来が来ていないだけなのか。
「ゲス・エスト、あなたが私に使おうとしていた技をあの娘に使ってあげるわ」
エアを空気の格子が立方体状に囲った。前後左右上下、逃げ場はどこにもない。
その立方体が徐々に小さくなっていく。このままいけばエアは細切れになる。
(絶対化がなければその技は脅威ではない。俺を操ってもおまえには空気を絶対化させられないようだからな)
魔法の絶対化はおそらく俺の意志を神が承認して初めて行使される。だから俺だけを操っても絶対化は発動しないのだ。
しかし、だからといって決して気を抜いていい状況ではない。
「そうね。あなたの操作力を使っても脅威にならないでしょうね。でも、私の力で操作すればどうかしら?」
そうきたか。
物質を自在に操れるカケラは空気をも操れる。わざわざ俺の力を利用する必要はない。
カケラに体を支配された俺は、単に無力化されている状態に成り下がった。
(だが、エアならあそこから脱出するくらい……)
「封印の魔眼・ムニキス」
カケラの紅い瞳が鋭く光った。
元々、闇道具のムニキスはカケラが生み出したものだ。つまり、カケラは魔法のリンクを消す能力を好きなものに付与することができる。
いま、彼女はムニキスの力を彼女自身の瞳に宿したのだ。その瞳で視られている間、その者は魔法を使うことができない。
カケラに視られているエアは魔法を使うことができない。それは魔術による再現であってもだ。
空中に浮いていたエアは、空気の制御を完全に失ったことで浮いていられなくなった。
落下しかけた彼女だったが、盲目のゲンが水を固めて足場としたため、エアは踏みとどまることができた。
さらに盲目のゲンが創った水の盾が檻の内側から格子の縮小を抑える。しかし、カケラの動かす空気のほうが強く、どんどん内側へ押し込まれる。
リーン・リッヒもムニキスで空気の格子に斬りつけるがビクともしなかった。
そもそも空気の格子は空間把握能力がある者にしか知覚できないので、対処は余計に難航する。
「ウィッヒ。私には見えないし止められもしないが、見えるようにならしてやれるぞ」
ドクター・シータが腕から自分の白い体を
しかし、これを物理的に止められる者がいない。
「僕が逃がすよ!」
ダースがエアの体にある影を引き延ばし、ワープゲートを作り出す。
エアがそこへ飛び込もうとすると、ワープゲートが消失した。
ダースが再びワープゲートを作り出すが、やはり飛び込む前に黒い穴は消失する。
「くそっ! 一瞬だけ体の支配をエストから僕に切り替えているのか」
一瞬だけ俺を解放してダースを支配することでワープゲートを消しているのだ。
ワープゲートは作るのに数秒かかるが、消すのは一瞬。
そして俺も解放されるのが一秒にも満たない一瞬なので何もできない。
「まずい、このままじゃエアさんが!」
リーン・リッヒと盲目のゲンは抵抗を続けているが、空気の格子はみるみる狭まっていく。
駄目だ。打開策が何も思いつかない。
思いついたところでカケラに支配されている俺には何もできない。
本当にエアが死んでしまう。
「――ッ!」
それは突如起こった。
さまざまな記憶と思考が一瞬で脳内に入ってきて、それを理解した。
それは感覚共鳴だった。
しかしキューカは記憶の扉に放り込まれて意識を別世界に閉じ込められているはずだ。
俺はキューカの方へ意識を向けると、そこには新たな見覚えのある顔があった。
黒髪に白いメッシュが入った、垂れ気味糸目の老紳士風の男。
ミスト・エイリー。
教頭先生だ。
感覚共鳴がなされたことで、彼が何をしたのかはすぐに理解できた。
彼の魔術は記憶に干渉することができる。記憶の扉に閉じ込められたキューカの記憶を消すことで、キューカの記憶の扉自体を消し去ったのだ。
記憶の扉は強制的に過去の記憶を追体験させる技。キューカの記憶がなくなれば、カケラの技は効果を発揮できないというわけだ。
その後、記憶を戻すことでキューカを復活させることに成功した。
もちろん、カケラが改めてキューカを記憶の扉へ閉じ込めるだろうし、そうなればイタチごっこなのだが、俺たちの意識がつながったいまこの瞬間を無駄にはできない。
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