第183話 シミアン王国・地理学

 ギルドの位置が分からなかった。たしかラノベには王都南にあると書いてあったはずだが、王都南が思いのほか広くて闇雲に探しても見つけられなかった。

 僕は仕方なく王立図書館に行くことにした。

 王立図書館は王城のすぐ東にあるので簡単に見つけられる。王立だけあって城みたいに壮観な外観の建物なので分かりやすい。


 警備する王国騎士の間を通り、図書館の入り口に立つと、ガラス扉が左右に開くのに連動して床が前進する。それが止まったころには背後で再び扉も閉まっていた。


 大きなロビーの半分はカフェスペースになっている。それを右手に眺めながら、左側に並ぶ受付カウンターへ向かう。

 だが、ふと気づいてしまった。

 周りはみんな貴族だが、僕は日本のカジュアルな服装をしているため完全に浮いている。というか明らかに異国人だから不審者扱いされかねない。

 たしか閲覧室へ入るには身分証明書を提示しなければならなかったはず。当然ながらそんなものは持っていない。


 仕方ないので僕は柱の陰に隠れて、そこから閲覧室の入り口へと位置魔法で瞬間移動した。


「楽勝だな」


 怪盗になった気分で気持ちいい。

 実際、資格がないのに情報をいただくのだから、あながち間違いでもない。


 閲覧室の中には、壮観な光景が広がっていた。元の世界でも西欧の大図書館なんかにありそうな景色だった。

 十段重ねの長身な本棚がずらりと並んでおり、分野ごとに区切られている。

 棚の間には、所々で魔法や火気の使用は禁止と書かれている。日本語だ。書物も日本語で書かれているし、並びはタイトルのあいうえお順だった。


 文字は日本語、か。なるほど。日本人作家の作品内だから日本語なのだ。

 言語まで異世界らしくこだわるかどうかは作家しだい。独自の言語にしたほうがリアリティーは出るが、うまく取り扱わなければ物語の進行の妨げになる可能性がある。


 分野の分け方も現実世界のそれと似ていた。

 僕は社会学カテゴリー、地理、シミアン王国と辿って蔵書を絞り込んでいく。そして、僕がいまいちばん知りたいシミアン王国内の地図に辿り着いた。


「さてさて、退屈な地理のお勉強の時間ですよーっと」


 僕は小声でつぶやいてから、厚手の本のページをめくった。


 シミアン王国。大陸の南西に位置する四大国家の一つ。

 形はおおよそ逆三角形で、中央に王都があり、そのほかは王国東部、王国南部、王国西部第一、さらに西の王国西部第二、これら四つの地域に分けられる。

 東、南、西にはそれぞれ大きな街道が通っており、王国東街道、王国南街道、王国西街道と呼ばれている。その街道のおかげで交通の便は悪くはないが、王国西街道が王国西部第二の途中までしかないため、西端の方はかなりさびれている。


 王都は中央にシミアン王城があり、東西南北の四つの区域に分けられる。

 王都北と王都東は貴族が住み、商業が盛んだ。ちなみに王立図書館は王都東に位置している。

 王都西には王国騎士や王国魔道騎士が住み、上位の者ほど王城に近いところに住んでいる。

 王都南には国内唯一のギルドがあり、国中から人が集まる。王都の中で最も広く、強い魔導師や魔術師が住んでいる。


 ギルドが王都南に位置することは書いてあるが、詳細な位置が分からない。そもそもこの本はどちらかというと歴史書に近いもののようだ。

 もっと最近の情報や現代の知識が書いてあるものを読む必要がある。


 次に僕が目をつけたのは、本ではなくファイルだった。固いボール紙のような表紙で、ページを後から追加していけるタイプのファイルだ。

 シミアン王国にも新聞のようなものが存在するらしく、このファイルは新聞の王国に関する情報をまとめたもののようだった。


 僕はその中でギルドに関する情報を探す。

 結局、地図は載っていなかったが、記事の記載を寄り集めるとおおよその位置を知ることができた。


 その中で、ギルドの位置とは関係ないが、個人的にそそる分野の情報も見つけた。軍隊に関する情報だ。


「なになに?」


 そこには、王国魔導騎士が再編されて、王立魔導騎士団と上級王国騎士に分けられたことが書かれていた。

 簡単に言うと、王立魔導騎士団は精鋭の魔導師部隊で、上級王国騎士は有象無象の魔導師兵士ということだ。魔法が使えない王国騎士も含めると、シミアン王国の軍隊は三段階のピラミッド構造になったということになる。

 これはかなり最近のことのようだ。僕はこの世界の暦を知らないが、記事が書かれている紙質がいちばん新しい。


「さて、と。ギルドに行きますかね」


「キュイッ」

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