エンゲージリングストーリー
@ajtgjm159
第1話 夫のかくしごと①
夫のかくしごと
もと子には気になることがある。一年ほど前に結婚したリュウの様子がおかしい。リュウは今は税理士事務所で働いているが、以前は人気クラブの元スタッフ。長身に、冷たく見える端正なマスク。時には社長のボディーガードもするほど腕っぷしが強く、鍛え上げられた均整のとれた体。そんなルックスなのに気さくで優しく、よく気もついてくれる。近寄りがたいほどの冷たく美しい顔が、笑うと子供のような笑顔になる。店では大変な人気者だった。
縁あって、もと子と結婚したものの、どこにでもいる女の子のもと子とはお似合いとは言い難いものがある。しかしリュウはもと子を大切にしてくれて、いつも帰宅後はもと子のそばにいてくれた。
だがここのところ、もと子のそばにいる時間がグッと減った。気がつくと離れたところからジッともと子を見ていたり、もと子の服装にチェックを入れるようになったり…。気のせいかもしれない。でも…。
キャベツを刻みながら考えているとリュウが帰ってきた。
「ただいま。いい匂いやな。ご飯出来たら呼んで。」
リュウはもと子の頭に軽くキスすると仕事部屋に入った。税理士のリュウと夜勤のある看護師のもと子はすれ違うことが多い。寝室以外のもう一つの部屋を仕事や勉強をすることに使っていた。
「呼んでって…。」
ついこの間までは着替えるとすぐ、もと子のそばにきて料理を手伝ってくれたり、オシャベリして二人の時間を楽しんでくれたのに。
テーブルに料理を並べ、最後に味噌汁をお椀に入れたもと子は仕事部屋のドアを開けた。
「ご飯出来ました、リュウさ…。」
もと子が言い終える前にリュウは机の上に広げていた薄い本を慌てて引き出しに入れた。
「何の本?」
「ん、仕事の関係。そんなことより腹減った。晩ごはん何かな?」
リュウはもと子の肩に手を置くと部屋から一緒に出た。
テーブルにつき、二人は頂きます、と手を合わす。
「ますます料理の腕上げたな、もとちゃん。」
リュウは美味しそうにもと子の手料理をパクパクとたいらげた。ご馳走さま、と言うと自分の使った食器を洗った。
「ゴメン、仕事が残ってるから先に休んでて。」
もと子の頭をヨシヨシと撫でるとサッサと仕事部屋にこもってしまう。この半月ずっとこの調子。以前は食後のコーヒーを飲みながらオシャベリしたり、イチャイチャしていたのに。
本当に仕事なんだよね?
もと子は食欲をなくし、残ったおかずを冷蔵庫に片付けた。
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