第52話 天界四天王

「俺の星降りをくらいな!!」


 ルディの放った魔法はディアウスの頭上で破裂し、複数の球体を拡散させる。球体一つ一つが炎や氷と言った属性魔法の塊であり、それでいて濃い魔力を纏っている。いくつものが球体が降り注ぐその光景は流星群を思わせた。


「くっこの程度……!」


 ディアウスはそれを避けるが、無数に降り注ぐ球体全てを避けきることは出来ない。少し掠っただけで属性の影響が広がっていく。火傷や凍傷と言った傷は増えて行くものの、ディアウス自身の回復力が強くそれだけでは致命傷にはならなかった。

 ただ体力は削れているのか徐々に息が荒くなっていく。少しずつではあるがディアウスを疲労させることには成功しているようだ。 


「私も負けてられないわね」


 魔力の回復のために一度ルディが下がった瞬間、入れ替わるようにしてシエルが前に飛び出る。先ほどまでは持っていなかったが今は太陽のように輝く大剣を担いでいる。恐らく生成魔法で生み出したのだろう。


「どぅらァァ!!」


「中々やるでは無いか!」


 シエルの振り下ろした大剣を片手で受け止めようとしたディアウスだが、思っていたよりも遥かに威力が高かったようで、片腕を斬り落とされる。しかし傷口はすぐさま再生し始め、あっという間に完治してしまった。


「ホント、その再生能力反則じゃないかしら」


「悔しかったら再生速度以上の攻撃を浴びせて見せよ」


 回復能力の高さというのがとても面倒くさいものだと言うのは、シグマとの戦いで痛い程実感している。 彼女の使う大剣ではどうしても手数を出すことが出来ないため、致命傷を与えることが出来なければ再生には追いつけない。その点でも彼女はディアウスと相性が悪いだろう。だがそれはあくまで彼女単身で戦う場合だ。

 シエルは大剣を担ぎ直し、そのまま横に移動する。するとその後ろではハクが魔法の詠唱を完了させていた。

 彼女は一人では無い。共に戦う者がいるのだ。


「何!?」


 ハクの放った魔法は一度空中に浮かび上がると、龍や不死鳥に姿を変えディアウスへと襲い掛かる。自我を持つ魔導生物をあれほどの短時間で複数作り出すこと自体異常なことだが、龍や不死鳥などを模したものは必要魔力も必要な技術も高く生成難易度が高い。それだけハクと言う少女が実力者であることを裏付けている。

 自我を持って攻撃を繰り返す強力な魔導生物たちには流石のディアウスも手を焼くようで、次々と傷が増えて行く。倒しても倒しても次から次へと生み出されるために魔導生物の数は中々減らない。


「くそっ鬱陶しい! ええい、全て燃やしてくれる!」


 ディアウスは面倒くさくなったのか自身を中心に爆炎を発生させ、魔導生物を燃やし尽くした。いくら強力な魔導生物と言えど、あれほどの威力の炎を受ければひとたまりもない。同時に、魔導生物を生成させていた大本の魔法も破壊されてしまう。


「ふぅ……って今度は其方か」


「自ら視界を悪くしてくれるとは、ありがたい限りだ」


 ゼロはディアウスの起こした炎の煙に紛れて接近する。ゼロは他の3人とは違い魔法では無く自らの肉体で勝負する男だった。

 その身体能力は能力を解放した際の神には及ばないものの、3人の攻撃によって疲労が重なっているディアウスと良い勝負を繰り広げている。

 しかし戦いを続けて行く内に、徐々にディアウスの動きについていけなくなっていった。ディアウスは覚醒によって常に能力が高まり続けているのだ。

 天界四天王は素晴らしい連携を見せるが、それでもディアウスには一歩及ばなかった。時間をかければかけるほど戦況は厳しくなっていく。


「不味いね。そろそろ手に負えなくなってくるかもしれない」


「全員で総攻撃……というわけには行かんな。遠距離魔法は迂闊に使えば味方に命中してしまう。その中でもルディの星降りというやつは避けながら戦うのはほぼ不可能だろうからな」


「……オレが一肌脱ぐとしますか」


「エレナ?」


 エレナはアリサの持っていた神殺しの剣を無理やり奪い取り、鞘から剣を抜く。最新の勇者である彼女になら神殺しの剣は抜ける。しかし彼女は魔法戦闘主体であり、身体能力ではディアウスに遠く及ばない。剣を抜けたところで、それを扱うのがエレナでは戦力にはならないのだ。


「……アレをやるのか?」


「……」


 アリサは何かを知っているような神妙な面持ちでそう聞いた。それを聞きエレナはしばらくの無言の後、ぽつりと呟いた。


「見ててください。オレのすべてを賭けやがりますよ」


 エレナの覚悟の決まった表情は、地上でのふざけていた彼女からは想像もできない程に凛々しく美しかった。

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