第34話 水着回?

「魔王様! 海に行くのならこれを着るといいわ!」


 アリスから手渡されたのは露出面積が多い……というか最低限しか隠せていない水着。

 いや隠せているのかすら怪しい。


 ……これを着ろと言うのか?


「絶対似合うから! 魔王様のありとあらゆるところがが強調される良い水着よ!」


「見えてはいけない所も見えてしまうだろうが!?」


「えー」


「そもそも遊びに行くわけでは無いのだぞ」


 我らは神の友人である自称海神とやらに会いに行くのだ。遊んでいる暇など無い。


「ディアベル! この水着似合っているか?」


「ああ似合っているぞ。特に胸と腰のフリルが可愛い」


「えー遊びに行くわけじゃないって言ったのに!」


「アリサは別だ」


 アリサの普段の勇ましさからは考えられないような乙女心溢れる水着。動くたびに揺れるフリルが目を奪う。

 程よくついた筋肉、引き締まった体が水着によってより強調されている。

 そして何より、水着姿を見せびらかしながらも少し恥じらいのある表情や仕草が可愛すぎる。

 なんだこの美少女は。

 あ、我のパートナーか。


「ありがとな。……え、もしかしてディアベル……これ着るのか?」


「着るわけ無いであろう」


「そ、そうだよな」


 目に見えて動揺するアリサ。

 彼女は我の裸体を直視出来ないと言うのに、これほどの露出面積の水着ではまともではいられないだろう。

 それに何より恥ずかしい。既にセクシー魔王様のおっぱい光線なる謎の言葉が蔓延していると言うのにこれ以上辱められてなるものか。

 精神面において我とアリサ二人共に問題がありすぎる水着なのだ。


「まあいいわ」


 アリスはその場を立ち去る。悪い笑みを浮かべていたような気がするのは気のせいであろうか。





「この辺りかな」


 神の案内によって海神の城に近いところまでやって来た。大陸の北の果てであり、やや肌寒くなってくる。

 ここから海の中を進んでいくことになるのだろうか。

 ……この寒さで水着で潜るのか?

 死ぬぞ。


「さて、こっから潜ってくんだな」


 アリサは既に水着になっている。寒くないのか?


「いや、海を割るから潜らないよ」


「え?」


 神はその言葉の通り、いとも容易く海を割った。

 深海にいたるまで一本の道が出来上がったのだ。


『えぇーーー! これじゃ魔王様の水着姿が見られないじゃない!』


「アリス!?」


 突如聞こえるアリスの叫び声。

 しかしこの場にアリスはいない。


「む、あれか」


「アリサよどうしたのだ」


「ディアベルの後ろ、何か飛んでいるぞ」


 アリサの指さした先を見ると、小型の鳥型魔物が飛んでいる。

 それだけであれば何もおかしくは無い。

 だがその魔物がアリスの魔力を纏っているのが問題であった。


「アリス、さては盗撮していたな?」


『な、なんんのことかししっら』


「いやこの動揺具合はそうとしか考えられないだろ」


「まあ待つのだアリサよ。どのようなことでもまずは弁明の機会を与えるべきなのだ」


『いいわ。ここでどれだけ足掻いたって見苦しいもの。……だから最後に言わせてもらうわ。魔王様の水着、差し替えておいたのに無駄になったわ!!』


「なに!?」


 持ってきていた水着を確認する。

 そこには我が準備した水着は無く、昨日アリスが見せてきたエグい水着に差し替わっていた。

 神が海を割る力を持っていなければこれを着ることになっていたと考えると背筋が凍る。


「アリス。戻ったら処罰を与えるから心しておけ」


『……お手柔らかにお願いするわ』


 ひとまずアリスのことは後で考えよう。

 今は目の前のことに集中するべきだ。


「それじゃあ行こうか。深海までは少し遠いからね」


 神の後ろに続いて、我とアリサは割れた海の間を歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る