第19話 神陣営も大変なのかもしれない

「現れたな神の使い!!」


「マオウ……コロス……」


 うん? なんだかすごくデジャヴ。

 いや、これはデジャヴでもなんでもない。こいつ、デルタと全く同じ口調なんだ。

 口調だけでは無く見た目も全く同じだ。まるで複製したかのようじゃないか!


「オレハ……イプシロン。マオウヲコロス。スベテコロス……!!」


 デルタと同じような前口上で攻撃を仕掛けてくる。

 やはりデルタと同じくとにかく足が遅い。せめて少しくらい強化してやれよ神とやら……。


「ニゲルナ、ヒキョウモノ!!」


 しいて差異があるとしたら、デルタに比べて少し強気なところが異なる点だろうか。


「使いまわしかこの野郎!」


「ウゲエエッェ」


 アリサに鞘でぶん殴られて意気消沈。

 あまりにも可哀そう過ぎる。敵ながら同情してしまう。


「オレハゴバンメニヨワイ……セイゼイアガクンダナ……!!」


 消滅した場所にはデルタの時と同じく宝石が落ちている。

 アリサはそれを拾い上げようと身を屈めた。その時、何者かの影がアリサを覆った。


「スキアリッ!!」


「なっ!?」


 確かに消滅したはずの神の使いがアリサの背後から現れ、咄嗟のことに反応が遅れたアリサは一撃をもらってしまった。


「アリサ!!」


「油断したぜ……いったいどんな手を使ったんだ?」


「ナンテコトハナイ。タダスキヲツイタダケデスゾ」


 ……デスゾ?


「おいおい、急にしゃべり方が変わったじゃねえか」


「オレハモトカラコノシャベリカタデスガ?」


「……は?」


 会話が妙に嚙み合わない。

 まるで別人のような……。


「オレハゼータ。オマエラヲゼンインマッサツシマス」


「ゼータ……ってことはさっきのヤツとは別の個体か」


「マッサツデスゾ!!」


 ゼータはアリサの背後に回り再度殴り掛かろうとする。しかしその足の遅さによって当然のように避けられ、逆にアリサに背後を取られてしまった。

 アリサはそのまま背後からゼータを抱きかかえ、後ろへと投げ飛ばす。


「グハッ!! チイサキモノニカカエラレルクライナラ、ソッチノマオウニカカエラレタカッタデスゾ!」


「この変態が!!」


 アリサの全力を込めた一撃がゼータを真っ二つにする。そのまま二つの影は消滅し、これまでと同じく宝石が落ちる。


「……アリサの地雷を踏みおったなアイツ」


 しかし、ゼータから急に知性が上がったような気がしたのは気のせいだろうか。 

 今までの神の使いは戦うことにしか能が無い戦闘狂のような性格であった。だが今のゼータは明らかに戦うこと意外の部分にも興味を持っていた。


「ふう。今後出てくるのはああいうヤツばっかじゃねえだろうな……」


「それは……嫌すぎるな」


「スキアリッッ!!」


「甘い!」


 我は義手に搭載された高出力レーザーカッターを起動し、現れた神の使いを両断する。

 その際、ヤツから噴き出している謎の液体を頭から被ってしまったが致し方なし。後でシャワーを浴びれば済むことだ。


「グエエェェェェ!!」


「気配がバレバレであったぞ」


「ソ、ソンナ……オレハゼータヨリツヨイハズダ……ナノニナゼ……!!」


「二度あることは三度あるって知っておるか? 我は最近それに悩まされておるのだ」


「私聞いたことあるぜ。かつての勇者が魔王を倒しかけた時、二回目の形態変化を倒し終えてやっと終わったって思った瞬間、三回目の形態変化が始まった時に呟いたってやつだよな? つまりお前は最初から警戒されていたんだよ」


「クソッ! コトゴトクオレラノジャマヲスルノカユウシャァァァ!! マダオワラナインダゾ! コノオレ、イータヨリモサラニツヨキモノガカナラズヤオマエラヲ……」


 イータは最後まで言い終わらずに消滅した。こいつもやはり宝石を落としていった。


「……神たちの世界ってのは人手不足なのか? 量産型っぽいのばかりなんだが」


「それは我も思ったぞ。少しずつ違いこそあるものの、ほとんど変化が無い。もしや我々は神のことを警戒しすぎていたのか……?」


 なんとも気味の悪い状況ではあるが、もし仮にそうであれば我らは神とやらを高く評価しすぎていたのかもしれないな。

 


 戦闘時に浴びてしまった謎の液体を落とすべくシャワーを浴びる。

 てっきり血が噴き出しているものだと思っていたが、特に臭いなどは無いようだ。

 それにしても粘性が凄い……流石に神スライムほどでは無いが。


 我が液体を落とすことに夢中になっていると、背後で何か音がした。


「……何奴」


 我はシャワーを止め辺りを見回す。

 しかし何も見当たらない。


「気のせいか……?」


 再びシャワーを再開しようとした時、床に水が溜まっているのに気付いた。

 普段ならすぐに排水されるはずだ。もしや度重なるストレスによって、とうとう我も抜け毛が心配な状態になってきたというのか!?


 そうであれば排水溝を処理しなければ。


 そう考え後ろを振り向いた時、目の前にはヤツがいた。


「ヨウ、マオウ。サッキブリダゾ」


 我が初手両断したイータだった。


「貴様……いったいどこから?」


「オマエニフチャクシテイタエキタイカラサイセイシタンダゾ」


 神の使いには再生能力があるのか!? だがそれならなぜ他のヤツらは再生しなかった?


「ホカノヤツノコトガキニナルノカ? ソウダナ……ホカのやつらはさいせいのうりょくをもっていない。さいせいのうりょくをもっているのはオレからだ」


 オレから……つまりこいつ以降の神の使いは皆再生能力を持っているということか。……少々厄介だな。

 というかこいつ、途中から話し方が少し流暢になったような。


「それにオレは、もうまおうとあらそうつもりはない」


「どういうことだ?」


「まおうにふちゃくしているあいだに、まりょくをけいゆしていろいろな記憶を読み取った。勇者とのこと。部下とのこと。魔族と人族とのこと。その全部が、オレには輝いて見えた。なんて言えば良いのかな。『尊い』……そう思ったんだぞ」


 明らかに話し方が流暢になっている。もしや我から流れ出ている魔力を吸収し、自らを作り替えたのか……?


「こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないが、それでもオレは魔王と勇者の今後を見届けたい。どうか仲間に加えてはもらえないか」


 信用は出来ない。しかし、うまく利用すれば神についての情報を聞き出せるかもしれない。


「わかった。しかし信用は出来ない。隔離をはじめ、それなりの措置は行わさせてもらう」


「それでも構わないぞ。ありがとう」


 素直に感謝してくれるイータには申し訳ないが、信用が出来ない以上ひとまず結界を何重にもかけた部屋に案内し今は様子を見ることにする。

 だが今のイータからは、他の神の使いから感じた溢れんばかりの殺気が感じられない。ただ抑え込んでいるだけかもしれないが、それでも我は彼を信じてみたいと思う。


 というか神よ。主を簡単に裏切るような神の使いってどうなんだ……?

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