第18話 装備にはアップグレードが付き物

 ついに現れた神の使い。ヤツは自らをデルタと名乗った。そして、自らよりも強い存在を匂わせることも言っていた。

 ハッタリだと思いたいが、きっと事実なのだろう。物事は常に最悪の状況を考えて行動するべきだ。故に我らは対策を講じなければならない。


『魔王様、先日の宝石の件で伝えたいことがございます』


「ライザか。わかった今向かおう」


 デルタの残した宝石は研究施設で研究させている。何かしらの神の使いへの対抗策を手に入れられる可能性があるからだ。

 その宝石の解析がたった今終了したらしい。


 我は宝石の研究を行っている施設へと向かった。





「魔王様、こちらの宝石なのですが……どうやら神殺しの剣とほぼ同等の物質で構成されているようです」


「それはつまり、神殺しの剣はこの宝石から出来ている……?」


 神殺しの剣は魔王殺しの魔剣が覚醒して出来たものだ。確かに元となった魔王殺しの魔剣は神から勇者に授けられたものだ。であればそう驚くことでは無いのかもしれない。

 だが、なぜそれが神の使いから出てくるのか。


 ……考えてもわからない。今はそんなことを考えるべきではないだろう。


「この宝石を使えば、対抗策となり得る武器を開発出来るかもしれません」


「それは朗報だな。神殺しの剣は勇者であっても抜くことが出来なかった。剣が使えない以上、別の武器があるに越したことは無い。頼んだぞライザ」


「はい。必ずや期待以上のものを開発してみせましょう」


 なんかこの感じにデジャヴを覚えたが、きっと気のせいだろう。



「魔王様! 出来ましたよ!」


「うおっびっくりした!?」


 書類を確認していた最中に後ろから抱き着かれ、そのまま耳へとゼロ距離ハイテンションで叫ばれたため思わず椅子から転げ落ちそうになる。

 しかし、普段落ち着いているライザがこんなことになっていると嫌な予感がして仕方がないのだが気のせいだろうか。……気のせいだと思いたい。


「……武器が完成したのか」


「はい!」


 抱き着いたまま満面の笑みでそう答えるライザ。似たような行動をしばしば行うアリスを思い出すが、それとは違う雰囲気を感じる。彼女の場合我を誘うようなものが多いが、ライザの場合はなんかこう……ご褒美を求めているというか。

 なんか深い闇を感じてしまって引き離すことが出来なかった。


「では早速確認させてもらおう」


 我はライザを抱きかかえたまま外の訓練場へと向かった。





「……先ほどのご無礼、申し訳ありませんでした」


「あ、あぁ……いいんだそれは……。それより、武器の説明を頼む」


「はい。魔王様の魔導義手に追加パーツとして、レーザーカッターを搭載いたします」


「……うん?」


 今何と?


「パーツに刻印された魔術が宝石の力を引き出し、超高出力のレーザーカッターとして対象を斬り裂くというものですね」


「なんで義手に追加したの……? いつか外すことになると思うんだけど……」


「そこです。そこなんです。なので今回、この追加パーツは魔導義手無しでも扱えるように接着用の魔術も組み込んであります。これで魔導義手を外した後も運用可能です」


 そうか。腕を対象に接着すれば生身でも使えるな。

 じゃないよ。なんでまた義手を魔改造する流れになってるの。


「それだけじゃないですよ。各属性をイメージした色に変更可能です」


「それはすごいじゃないか。各属性の魔石無しに属性変更が出来るのか?」


「いえ、色だけです」


「色だけ」


 通常、物体に火や水といった属性を付与させるときは各属性力を持つ魔石を使用する。そのため魔石無しで属性変更できるとはすごいブツを作ったものだと思ったがまさか色だけとは。

 ……それ、需要はどこに?


「まだ機能はありますよ。攻撃時に鳴る音を変化させることが出来ます。これで色々な気分を味わうことが出来ますね」


「待って何その機能?」


 ライザは実際にその機能を使って見せた。

 魔導チェーンソーの耳障りな音。剣が肉を斬るような鈍い音。ライザ自身のアテレコボイスが鳴った時は正気を疑った。

 というかどれもこれもどこから持ってきたんだと言うレベルの高音質であった。音響魔術の無駄遣いにもほどがある。


「お気に召しませんか?」


「気に入るどうこうの話よりなんでまた義手を魔改造する流れに……あ」


 妙にテンションの高いライザ。普段に比べて明らかに様子がおかしい。

 

「もしかしてまた寝てない……?」


「はい。ですがご心配なく。詰め込める技術を詰め込めるだけ結集させて開発いたしましたので、性能は保証できます」


「我はライザの方が心配だよ」


 嫌な予感は的中した。

 というか以前のことでわかっているなら最初から手を打っておくべきであった。これは紛れもなく我のミスだ。

 

 二度あることは三度あると言う。仮に今後やってくる神の使いからも宝石が出るのだとしたら、同じことが起こる気がする。いやもう気がするんじゃなくて起こるのだろう。


 ならもう好き放題に開発させてしまうのもありか……。

 ちゃんとした状態で自由に作らせればばもう少しまともになるはずだ。なるはずだと思いたい。


「ライザよ」


「なんでしょう」


「今後新たな宝石が手に入ったとしたときの話しだが……例えどれだけ時間がかかっても良い。自由に開発しても良い。だから頼む。しっかり寝てくれ。妙なテンションで妙なものを作らないでくれ」


 ライザをおかしくさせてしまったのは我だ。

 過度な期待を背負わせてしまった我が悪いのだ。


 我は知らなかった。この後彼女がさらにとんでもないものを開発するということを。

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