第8話 反逆のアリス
「もう駄目! 耐えられない!」
「どうしたんですかアリス」
アリスは激怒した。必ず、かの魔王を誑かした勇者を除かなければならぬと決意した。
「最近魔王様が勇者を見るときにメスの顔をしているのよ! 魔王様は私のものなのに!」
「メスの顔って……それに魔王様はアリスのものではありませんよ」
「私の方が魔王様にお似合いだと言うことを、勇者にわからせてやる必要があるわ!」
アリスはそう言うと、アレキサンダーの制止を振り切って会議空間から出て行った。
「困りましたね」
「まあそう言うなアレキサンダー。仮にも彼女は魔王軍幹部だ。少しして頭が冷えたら戻ってくるだろうさ」
「イガラシ……。そうだと、良いのですがね……」
◇
「うーん、どうしようかしら~」
勇者は魔王様ですら太刀打ちできなかった存在。そんな者に私が単身挑んでも、勝てるはずが無い。それでも勝てないからと言って魔王様を諦めることは出来ない。私の憧れの存在であり、そして初恋の相手。
最初の内はボディタッチに反応してくれてたのにだんだん無反応になっていってしまった。囁きだってそう。耳元で囁いた時の、魔王様の紅潮した顔は破壊力が凄まじかった。
きっと、魔王様自身が自分の気持ちに気付いていなかっただけなのよ! それなのに、私が少しずつ育て上げた魔王様を横取りするなんて……勇者、絶対に許さないわ。
「おや、アリスさん。このような場所でいかがなさいましたか」
「ライザ……。そうよ! あなた、淫らな夢を見せることが出来るのでしょう?」
「ええ。それでも、相手の対魔力にもよって失敗もいたしますが」
「あなたにお願いがあるの! 勇者から魔王様を取り戻したいのよ!」
私はライザに、勇者から魔王を取り戻したい旨を話した。最初は訝しそうに話を聞いていたライザだったけど、私の本気を感じ取ったのか真剣な表情になっていった。
「ですがアリスさん。それは魔王様への反逆行為となってしまうのでは?」
「それでも良いのよ。魔王様が勇者のものになってしまうのなら、私はどうなっても良い。なんなら魔王様直々に処罰されたいの」
「本気……なのですね」
ライザは深く考え込んだ後、私の作戦に乗ってくれることになった。
誤算だったのは、ライザ自身も魔王様に思いを抱いているということ。これでは勇者をどうにかしてもライザと戦わなくてはならない。だけど、そのおかげで勇者を除くという共通目標が出来たのは好都合。
そう、まずは勇者をどうにかしなければならないの。
◇
「……安眠ドリンクねえ」
魔王軍の幹部であるアリスがくれた安眠ドリンク。飲めばぐっすり眠ることが出来て翌朝スッキリ! とのことだがいったい如何ほどのものなのか。
「ゴク……ゴク……ぷはっ。思ったより美味いな」
こういう薬系のヤツは苦いのが相場だと思っていたが、案外甘くて美味い。
「それではその効果とやら、見せてもらおうか」
安眠ドリンクを飲み終え、私はベッドの中へと潜った。
「アリサ」
「んー……ディアベル?」
なぜかディアベルが同じベッドにいる。確かに私は自分の部屋で寝たはずだ。
以前寝ぼけてディアベルのベッドに入り込んでしまったこともあり、そのあたりは慎重になっているはずなんだが……。
「ってちょっと待て」
ディアベルは私に抱き着いてきた。それもこの前のような優しいものでは無く、力強く私を逃がさないようにするかの如く締め上げる。
「ディアベル……いったいどうしたんだ?」
「アリサ……我はアリサが欲しくてたまらないのだ」
「な、なあディアベル……アンタ、そんなに肉食系だったか?」
以前のディアベルはこのような様子では無かった。いや、これが本来のディアベルなのか?
私はディアベルを、魔王を見誤っていたとでも言うのか。
「嫌か?」
「別に嫌じゃない。ただ、ディアベルが想像以上にグイグイ来るもんだから驚いただけだ」
「そうか」
その後もディアベルは行為を続けてきた。
ディアベルに求められていることに、私はどこか幸福感を覚えていた。恋人として扱われることに、幸せを感じていたのだ。
「……夢か」
目が覚めたらベッドにディアベルはいないし、服もベッドも乱れていない。昨日のことは全て夢だった。そう考えるのが自然だ。
「……だが、良い夢だった」
これで、安眠ドリンクの効果は確かなものであると太鼓判を押せるな。後でアリスに伝えてやろう。
◇
「ねえ、『魔王様に襲われる淫らな夢を見せて、勇者を魔王様から引き離そう』作戦は失敗したみたいだけど」
さっき勇者とすれ違った時、とても良い笑顔で昨日渡した薬について褒めてきた。つまりこれ、絶対に作戦失敗したってことよね。
「そのようですね。アリスさんが制作した薬によって勇者の対魔力は確かに落とされ、淫らな夢を見せることには成功いたしました」
「ならどうして……」
「簡単な話です。勇者は魔王様を襲うのも、魔王様に襲われるのもどちらもストライクゾーンだっただけです」
「そ、そんな……勇者なら魔王様にぐちゃぐちゃに襲われればそれで幻滅すると思ったのに!!」
魔王様の話によれば、勇者は男勝りの雰囲気で告白してきたという。であればきっと、自分がリードする側で無ければ気が済まないタイプだと思っていた……けど、違ったのね。
「今回は私たちの負けだわ……。でも覚えていなさい勇者! 次こそはこうはいかないんだから!」
こうして、私の反逆は徒労に終わったわ。
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