第4話

八月二十六日・三日目

    アグラ~


 六時頃、目が覚めた。屋上へ行ってみた。よく晴れていた。涼しさと静寂の中で、昨日宿の男が指さした方角に、タージ・マハルがポツンと小さく見えた。

 通りを見ると、兵士たちが列をなし、早朝ランニングをしている。通りの向かいの店では、数人の男たちが話をしている。スクーターに乗って、男が出掛ける。街はもう起き始めていた。


 部屋に戻って文をまとめる。

約束の九時に、ラメーシュが迎えに来た。払いを済ませてチェックアウトし、車に乗った。タージ・マハルに向かう車の中で、いつ切り出したものか迷っていた。


 タージ・マハルに着いた。ラメーシュはゲートの前で車を止め、ここで待っているから行って来い、と言った。ガイドするぞ、と言う男たちをかわしながら中庭を歩き、タージに至る入口のゲートで、ポリスだかアーミーだかに、荷物検査を受ける。リュックを開けて中を見せた。以前、爆弾騒ぎがあったとかで、チェックが行われているらしかった。要所要所に彼らが立って警備している。

 

 ゲートをくぐって中に入った。正面奥にタージ・マハル本体が見える。本体はもちろん、そこへ至る庭園までも左右対称に造られている。

 外国人ツーリストだけでなく、インド国内からも旅行者がかなり来ていて、タージ・マハルをバックに親子連れが写真を撮っている。

 

 石畳の割れた部分を修復する男、芝を刈る男、建物をほうきで掃く男、白い服に傘が目印のガイド、、、それぞれが自分の仕事をしている。庭園の大きな芝生では、高さが二メートル近くある牛に芝刈り機を引かせ、男が芝を刈っている。

 

 タージ・マハルは、ムガル帝国皇帝シャー・ジャハンが、死んだ妃、ムムターズ・マハルのために建てた巨大な墓なのだ。それに向かって歩いて行くと、周りの風景と合わせると小さく見えたタージ・マハルが、近づくにつれ巨大に見えてきた。真っ白く見えていた外観にも大理石の模様が浮き出てきた。


 タージ・マハル本体は土足厳禁だった。靴は靴屋に預けるか、その辺に置いておくか、自分で持つかだ。私は靴をリュックに詰め込んで上がった。素足でペタペタ歩くのは気持ちよかった。ここまで来て、ようやく自分の足で歩いている。日本人の若いバックパッカーとも言葉を交わしたが、タクシーで来ましたとは言えなかった。

 

 棺のある地下や、すぐ下を流れるヤムナ川、庭園内に点在する建物を回って見ていると、二時間近く経っていた。車に戻って、旅の打ち切りを宣言しなくてはならない。迷いは無かった。これは私の旅なのだ。

 

 話があるんだ。この旅はここで止める。まずそう言った。口ではうまく表現出来ないから、文章にした。読んでくれ、と手渡した。ラメーシュはゴニョゴニョと口に出しながら読んでから、こちらを見て、アングリー!と言った。怒ってしまったか。でも仕方ない、何と言われようと、ここで終わりだ。彼はまた、ゴニョゴニョ、、、アングリー!と言った。よく聞くと、彼が私に怒っているのではなく、彼のボスが彼を怒るのだということらしかった。

 

 お前がバラナシを見たいと言うので私が連れて行くことになった。途中で止めたりしたら、ボスが怒る。私に落ち度があったと思うだろう、と言った。

 あなたが悪いんじゃない、と彼に言った。確かに彼のせいではなかった。私がこのプランを決めて、彼は運転しただけだった。

 

 あなたの問題じゃない、これは私の問題なんだ、ともう一度言った。彼はもう一度文を読み返しながら、でも何故?と聞いた。歩きたいんだ、自分の足で、と答えると、分からないなあ、と言うように首を振った。金は戻って来るか、と聞くと、だめだ、と答えた。お前がオーケーして金を払ったのだから途中で止めても返せない、と言った。やはりそうか、、、惜しいが、これからの旅を無駄に出来ない。

 金はあきらめる。その代わり今日一日アグラ観光をしてくれ、と言うと、分かった、と言った。この手紙は俺にくれ、ボスに見せるから、と言い、アングリー!とまた言った。


 どこへ行きたいんだ?と聞かれるが、何も考えていなかった。ガイドブックをめくってみる。ファティプール・シークリーだ。市街から離れた所にあるらしい。車が使えるうちに見ておこう。地図で見ると、三・五キロとあるが、それ以上は確実に走っているのに、なかなか着かない。どうもミスプリントで、三十五キロらしかった。点が余計だ。点が。

 走っていると、道路の脇にゴワゴワした毛をした一m程の動物がいる。熊だった。鼻輪に紐が通され、男が手に持つ棒に繋がれている。

 

 ラメーシュが車を止めたので、降りてみた。へ~、と眺めていると、男は熊に芸をさせる。立たせたり、寝転がしたり、、、そこではっと気付いた。これが商売でないはずがない。しかし既にもう熊は芸を始めてしまったのだ。はい、それではさようならとは言えなくなってしまった。いくらなんだ、と聞いても男は口を濁し、芸を続行するのであった。終わってから交渉するほかない。ラメーシュにカメラを渡し、写真を撮ってもらう。一分足らずで、写真は撮り終わった。


 百ルピーだ、と男は言った。聞いた瞬間に、高い!と思った。そして腹が立った。これまでに私に寄って来る物売りの提示する額は常に百ルピーを超えていた。百と言う数字に、拒絶反応を示すようになっていた。五十だ、それ以上は払わない、と言うと男は五十ルピーを受け取った。日本円にすれば、三百円が百五十円になったに過ぎない。三百円の支払いを高いと思い、頭に来たのであるが、むしろツーリストと見て当然のように吹っ掛けてくるのに腹が立った。しかし、熊の芸に金を払うのは観光客くらいの物だろう、とも思う。

 

 車に乗り込んで走っていると、同じような熊使いが何人も立っていた。大きな熊もいれば、小熊もいた。おそらく私と同じような観光客がいて、熊と写真を撮っていく。そして百ルピーを何気なく払っていくのだろう。安いと言って払っていく観光客に真っ当な値段は言わないだろう。日に何人客が取れるか分からないのに、稼ぎを自分から減らすことはない。そして、観光客にとっては「すごく安い」と「安い」の間はほんの数ドル、数百円の違いにしか感じられないのだ。


 もしかしたら、、、とまた思う。熊の芸に本当の値段など存在しないのかも知れない。払う側と、受け取る側両方が納得したら、正しい値段、、、それがインド価格ならば、払った後で、高かった、ぼられた、と怒るのは、決まった値段で物を買う世界にいる観光客の、勝手な言い分なのかも知れない。


 ファティプール・シークリーへの道は続く。道端の深い水たまりで、水牛の群れが水浴びをしている。孔雀がヒョコヒョコ歩いている、、、。荷台にぎゅうぎゅう詰めに男たちを乗せたトラックが追い抜いて行く。男たちがじ~っとこちらを見ている。どういう意味の視線か分からなかったので、手を振ったりはしなかった。

 途中、道に遮断器があった。上げられていたが、ラメーシュは車を止め、脇にある建物へ歩いて行く。帰って来てから尋ねると,州を超える時は金を払うんだ、と言った。観光客だけのものなのだろうか?

 

 ファティプール・シークリーに着く。ラメーシュは車を入口のそばに止め、ここで待っているから三十分で行って来い、と言う。短いよ、と言うと、一時間か?と聞く。もっとだ、と言うと、アズ・ユー・ライク(好きにしな)と言った。サンキュー。よし、だいぶ物が言えるようになってきた。

 

 入り口には数人の男たちが座っていた。ナマステ(こんにちは)、と挨拶しながら入って行く。ここも金曜日の今日は無料だった。

 傘を持った老人が近づいて来る。私はガイドだ、案内するよ、と言う。穏やかな口調だった。ノー・サンキュー、自分で見るよ。

 入ってからも、何人も、ガイドしようか、と近づいて来る。必要ない。要らない。ノー。つい早足になる。

 

 不思議なことに一人のガイドと妙に目が合う。目が合うと、彼から寄って来たり、手招きされて私が寄って行ったりした。何故なんだろうと思ったら、確かに理由はあったのだ。ラメーシュと顔がよく似ていた。髪型、額、目つき、鼻の下の髭、、、。ガイドの方が色が黒く、目印の傘を持っているにも関わらず、あれ?暇だから入って来たのかな?と思って見てしまうのだ。

 そんなことを二度三度しているうちに、雇うことにした。ガイド料十ルピー、念を押してからオーケーした。自分一人では単なる巨大な城にしか見えなかった物に彼が説明を加えていく。


 ファティプール・シークリーは、ムガル帝国皇帝アクバルが建てた物で、一五七〇年から八二年まで住んでいた。ファティプールとシークリーの二つの部分に分かれ、今いるのはファティプールで、ファティは勝利、プールは都という意味だった。


アクバルには三人の妻がいた。

一、 ヒンズー教徒のジュダバイ   、、、ジャイプール出身

二、 キリスト教徒のマリア     、、、ゴア出身

三、 イスラム教徒のソルマソルターナ、、、トルコ出身

それぞれが住んでいた建物を見て回る。マリアの住んでいた建物は二つ、同じ作りの物で夏用には窓があり、冬用には無い。ステンドグラスが装飾されていたり、かすれてよく見えないが、壁に、キリスト教にまつわる絵が描かれていたりする。他の建築物にも、イスラム、ヒンズー、キリスト教の様式が融合されているのが分かった。

 

 さっき一人の時登った高台は、五重のイスラム建築、パンチ・マハルで、アクバルの息子ジャハンギールが座って、城下を見下ろしたという。

 馬の厩舎があった。馬をつなぐスペースがずらりと並び、かいばの跡も残っている。この都には百六十頭の馬と七十頭の象がいて、戦や遊びに使われたという。学校もあり、アラビア語とウルドゥ語を習っていた。

 

 ファティプールを見終わると、一度表へ出て、二百m程歩きシークリーに着く。門の脇に大きな井戸のような貯水池があった。それを見ていると、男に声を掛けられた。その男の仕事(?)は隣接する十五m程の建物から、そこへ飛び込むことだと言う。見たいか?と言うので、見たくない、と答えた。

 

 門で靴を預けて中へ入る。ジュース屋でミネラルウォーターを買った。土産物屋が並んでいる。ガイド氏に連れられて一軒へ入る。大理石の置物や絨毯を売っている。全く興味が無かった。椅子に座ってミネラルウォーターの蓋を開けようとするが開かない。店の少年がやってみるが、だめだ。少年は噛みついて歯で開けようとするがまだ開かない。次にペンチを持って来て、ようやく開いた。何と頑丈に出来ているのだ、とおかしくなりながら、礼を言って店を出た。


 シークリーで見るべき所は、アクバル帝がここに都を作るきっかけになったムスリムの聖人、シェイク・サリーム・チヒティの霊廟だが、開く時間は決まっていて、まだ時間があると言うので周りの建物を見てからまた土産物屋に入る。

 彫刻細工の中に面白いものがあった。七センチ程のフクロウの腹の部分が空洞になっていて、そこにまたフクロウが彫られている。そのフクロウの腹の中にもう一匹フクロウがいる、、、というもので、一つの石から彫られていると言う。買わないか?と言うので、要らない、と答える。よく出来ているが、そもそも土産物を買う習慣が無いのだ。

 

 そばに置いてあった象の彫り物を手に取ると、店の少年は、それは安物だ、チョークで出来ているからすぐ壊れる、と言う。三センチ位の物で、値段を聞くと一ルピーだと言う。一ルピーで買える物があった!出来も悪くない。それを買って店を出た。

 絵ハガキ少年に取り巻かれて早足で歩くと、門の脇の貯水池に出た。ガイド氏が指さすので見ると、先程会った男が今まさに飛び降りようとしている所だった。下でカメラを構えている内の誰かが見たいと言ったのだろう。ガイド氏は、写真を撮ってやる、と言った。カメラを渡すと、飛び降りる瞬間を見計らってシャッターを押した。

 

 男が水面に落下して水しぶきが上がる。すごい仕事もあったものだ。いったいどういう気持ちで飛び降りているのだろうか?金を払って飛び降りさせようとは思わない。しかし彼は誰かから金をもらってそれをしなければ生きられないとしたら、、、。その姿は少し悲哀が漂っているように思えた。それとも彼はもっとタフで、私の感傷に過ぎないのだろうか?


霊廟が明く時間になったので行ってみる。タージ・マハルと同じく、小さな部屋に棺が置かれ、周りに花や、賽銭らしき小銭が置いてある。ムスリム(イスラム教徒)であろう男たちがやって来て、祈ったり、棺に頭を擦り付けたりしている。

混んで来たので外に出た。霊廟の脇に座っていると、中から歌が聞こえてくる。コーランか?と尋ねると、ガイド氏は、そうだ、と言った。美しいメロディだった。


 霊廟のそばには、王族の墓石が並んでいて、リスがちょろちょろしている。全てを見て、ガイドは終わった。門まで一緒に歩き、少年に履物を預けた代金二ルピーを払い靴を受け取る。

別れ際、ガイド氏の写真を撮ろうとすると、そばにいた子供が照れながらカメラのフレームを出たり入ったりする。一緒に入んなよ、と手で合図すると、三人がガイド氏と一緒に収まった。後ろが騒がしいので振り返ると、いつの間にか人だかりが出来て覗き込んでいる。ガイド氏に名前を聞いて手帳に書くと、人だかりの一人がヒンズー語で書いてくれた。ガイド氏に十ルピー渡し、いいガイドだったよ、と礼を言って車に向かった。


 自然のままの動物が見られるバーラトプル鳥獣保護区も見るつもりだったが、予想以上に長居したのと、帰りの道のりを考えて止めることにした。暗くなる前にタージ・マハルまで着きたかった。帰りのデリーまでの列車のチケットも買わなければならない。

途中、食堂に寄って遅い昼食(朝も食べていなかったが)を済ませることにした。昨日の夕食みたいなのは御免だったので、ラメーシュに尋ねてポピュラーな物を頼む。


 来た物は、カレーと言うより野菜のバター炒めといった感じの物だった。ライスにかけて、右手の五本の指を使って混ぜて、口に運ぶ。指で直接つまんで食べると、うまく感じるので、家で一人でカレーを食べる時にやったりしていた。今回は腹も空いていたというのもあるが、とてもうまかった。

飯が終わり、また帰り道を走る。


 今日の宿はどうする?昨日の所に泊まるなら安くなるぞ。百ルピーでいい、残りはオレが払ってやる、とラメーシュは言った。

もっとタージのそばがいい。タージのそばの宿で安い所を知ってる?五十ルピー位の、と言うと、安い宿はよくない、悪い奴がいっぱいいるし、虫も出る。一晩中体をかいてなきゃならない。眠れないぞ、と言う。


 途中の賑やかな通りでラメーシュが車を止め、タバコを買いに行くのを待っていると、店先にいた老人が手招きする。降りて近寄ると、ボールペンで手の平に何か書いている。何?と聞くと、ボールペンをくれ、と言う。何だ、、、何か書いて見せてくれるのかと思ったら、単に落書きをしていただけだったのだ。一本しか持ってないからダメ、と言うと、そうか、と言った。


 タージ・マハル付近に戻って来た。ラメーシュに、ここはどうだ?と言われてホテルに入る。部屋を見せてもらうことにした。三階にある部屋の窓からタージが見える。エアコン付き十五ドルだと言う。もっと安い部屋はある?と聞くと、二階の部屋に案内された。ここだ、と言うのでドアを開けようとすると、ノブが取れてしまった。宿の男は、あー壊したね、と言う。ノーノー、勝手に壊れたんだ、と焦っていると、冗談だよ、と笑った。


 隣の部屋のドアを慎重に開ける。こちらも所々ネジが緩んでガタガタする。中に入ってみた。テレビ、エアコン付き、十ドルだと言う。とりあえず下に降りる。

決めかねていたのでラメーシュに、まずデリーまでの列車のチケットを取りに駅まで行ってくれ、と言うと、宿の男が、取ってやる、と言う。

 

 これから駅へ行って、また人ごみに揉まれるのは億劫だった。いくらだ?と聞くと、十ドルだと言う。手数料を含めても高いような気がしたので、値段を調べようとガイドブックをめくっていると、ラメーシュが宿の男に何やらゴニョゴニョ言った。宿の男は五ドルでいい、と言う。それで、いつ乗るのだ?と聞く。


 いつにしようか?明日では早い。まだアグラを歩いていないのだ。しあさってでは遅い。デリーのメイン・バザールをゆっくり歩きたい。

明後日にした。明後日の十八時四十五分発、タージ・エクスプレス。値段は載っていなかったが、五ドルならそう吹っ掛けられてはいないだろう。いつ手に入る?と聞くと、明日の十一時だ、と言う。チケットの手配を任せて、泊まることにした。ドミトリーもあった。大部屋にベッドが並び、二~三人のインド人がゴロゴロしている。安いだろうが、不用心だしくつろげないだろう。十ドルの部屋に決めてチェックインした。


 まだ明るかった。周りを歩こうかとも思ったが、疲れていたのでやめた。歩くのは明日からだ。宿の男が部屋にやって来て、チケット代五ドルを先にくれと言う。金を渡し、レシートをくれと言うと、大丈夫だ、ここはホテルなんだから、と答えた。五ドルばかりをちょろまかすとも思えないのでオーケーした。

ラメーシュが、それではオレは帰る、と言うので下まで見送って車の前で写真を撮った。


 ベッドの上でゴロゴロしていたが、八時を過ぎて腹が減った。外からか、ホテルのレストランからか、いいにおいがする。一階にあるレストランへ降りて食べることにした。夜の機内食以来口にしていない肉を食べることにした。


 チキンカレー、ライス、ミネラルウォーターを頼む。スプーンでカレーをライスにかけ、指で混ぜて、骨に付いた肉を取って食べる。このカレーもまたうまかった。どの食べ物も昨日みたいだったらとてもインドには居られないと思っていたが、そんな思いはもはや消し飛んでしまった。


 勘定を済ませて、ウェイターが釣りを持って来たが、二ルピー足りなかった。それを告げると、彼はチッと舌打ちして五十パイサを持って来て私に渡した。そこで気付いた。チップを引いておいた、ということだったのだ。そうだったのか、と思ったがそれをまた渡し返すのも変だったので、そのまま部屋に戻った。


 テレビを付けると、インド製ホラー物をやっていた。二人の男女がトイレットペーパーを巻き付けたようなミイラ男たちに囲まれて悲鳴を上げている。ついに男は、胴を引きちぎられてしまった。カメラに収めて、少し見てから消した。

ベッドの上でボーッとしていると、部屋の電気が消えた。今度は焦らなかった。またか、と思って外を見ると、辺り一面真っ暗だった。故障ではなく停電だった。ホテルの前に建つ家の窓に、ロウソクの灯がゆらゆらと揺れるのが見えた。


 一~二分して部屋が明るくなった。ホテルで自家発電を始めたのだ。下で機械のガタガタと動く音がする。十五分程で停電は終わり、家々にも明かりが付いた。うるさい発電機も止まった。

することもなかったので、シャワーを浴び、Tシャツとパンツを洗濯し、ハンガーに吊るした。またベッドの上で手帳に記録を書いたり、ガイドブックをめくったりしていたが、眠くなったので寝た。



                ~続く~


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