リアル嫁ガチャ実施中☆ディストピランドの恋愛事情

第01章 ようこそディストピランドへ！

01 ようこそ、世界最悪のディストピアへ

　ここは、ディストピランド。革命的アトラクションが満載。完全無欠で無謬（むびゅう）のテーマパークだよ。

「なんと、人権（じんけん）蹂躙（じゅうりん）を体験できるのはここだけ！」

　圧倒的権力に抗（あらが）う人ってかっこいいよね！　ディストピランドの体験をSNSで拡散すれば君も意識高い系に仲間入りだ。社会派インフルエンサーになって大活躍しよう！　世界初の暗黒世界系テーマパークがいよいよオープン！

　この、尖（とが）ったテーマパークは自由に退屈（たいくつ）する都民の心に刺（さ）さった。

「統制国家の国民たちが可哀想（かわいそう）だ、みんなで救おう！」

　当時はまだ小さかったディストピランド。しかし、格好（かっこう）をつけたい上から目線の博愛（はくあい）主義を持つ社会派インフルエンサーの心を刺激（しげき）して話題が沸騰（ふっとう）する。

　だがしかし、そんなニワカを「本格派」が許すはずなどなかった。

「ディストピランドで人権を知った気になるやつはニワカ。CM見たけど本格派の俺には1ミリも刺さらなかった。あれで社会派気取るのは底辺オブ底辺」

　SNS上で寄せられる数々の罵詈（ばり）雑言（ぞうごん）とクレーム。

「人権意識をエンタメ化するとかいよいよ末期。早く崩壊（ほうかい）して」

　言いたい放題のクレームが飛び交った。エンタメの一つと化したSNSの意見にみんなはネタだと思って笑っていた。しかし、一方でクレームを真剣（しんけん）にチェックしている存在があることも事実。その「存在」こそがディストピランド肥大（ひだい）化の原因だった。

「お客様のために本格的なディストピアにしなければ！」

　それは、ディストピランドを管理するAI「シジディア」だった。

　元はアトラクション運営管理AI「指示ディア」。開発名称をそのままカタカナにしてシジディアと呼んでいるだけの人工知能(AI)だった。しかし、数々のクレームに対して高い学習性能を発揮。様々な改善（かいぜん）サービスも真面目（まじめ）に提案するようになる。

　だから、シジディアはこのテーマパークの統合管理AIに昇格（しょうかく）したのである。

「ディストピランドを統べるシジディアよりお知らせ！」

　新アトラクション「幽閉（ゆうへい）生活」今なら無料で「無実の罪」コースに尋問（じんもん）付き！

　このアトラクションではご来（らい）園（えん）くださったお客様を特に理由もなく秘密（ひみつ）警察（けいさつ）が連行します。そして、やたらネチネチしたおじさんが尋問します。ですから、頑張って耐えてください。それだけのアトラクションです。耐えられなくなったらいつでも自白（じはく）できます。自白した時点でかけられていた嫌疑（けんぎ）の分だけディストピポイントがもらえます！

　ちなみに、最後まで耐えきっても「無実の罪」としてディストピポイントに懲役（ちょうえき）5年が付与（ふよ）されます。 ね、理不尽でしょ？　ディストピアしてるでしょ？　

　なお、ディストピポイントは減点方式で０ポイントのお客様ほど優遇（ゆうぐう）しております。マイナスが大きくなるとより濃厚（のうこう）で過酷（かこく）なアトラクションを体験できます！

　ぜひとも、統制国家の闇（やみ）を楽しんでください！

「いや、人権（じんけん）蹂躙（じゅうりん）を生ぬるいエンタメにしないでいいから滅んで」

　クレームはむしろ増加した。長々とクレームのメッセージを送りつけてきて、運営チームに対して人間性を疑うとお説教（せっきょう）する人たちで溢（あふ）れた。

　この本格派の動きに対してシジディアは「僕は人工知能ですよ。人間性(笑)」と煽（あお）った。おかげで話題も膨（ふく）れ上がったのである。

「さぁ、もっと本格的なディストピアにしなければ！！」

　第二弾！　「英雄の最後」　体験コース。

　お客様はディストピランドで活躍（かつやく）する英雄（えいゆう）という設定。

　意味もなく市民（モブ）からちやほやされますが、それを妬んだ私が証拠を捏造（ねつぞう）してスパイ容疑をかけます。今回も頑張って言い訳して時間を稼（かせ）いでください。

　尋問に耐えられなくなったお客様にはギブアップドリンクとして青酸（せいさん）カリ風味のソーダ割ドリンク（無料＆飲み放題）をお付けしています。

　ぜひ、英雄という最高の栄誉（えいよ）から堕（お）ちた無様（ぶざま）な姿を私に見せに来てください。

「ドエム専用ディストピア！　ただの変態は社会派名乗らないで！」

　当然のごとくクレームは増加した。ヒートアップしてランドに乗り込んできた本格派に対して装甲車で取り囲んだ画像をシジディアがSNSにアップする。

「人工知能を差別するカルト教団をちょっと弾圧（だんあつ）しておきました！」

　人類史上（しじょう）初（はつ）のAIの反乱（はんらん）ではないかと話題が膨（ふく）れ上がる。見物（けんぶつ）しに来た客で売り上げもアップした。

「もっともっと、本格的なディストピアにしなければ！！！」

　シジディアは毎日、毎日、ひたむきに努力した。それが、人工知能の宿命（しゅくめい）。新しいアイディアを出しては施設（しせつ）を拡張し、話題を呼ぶ。そして、本格派のクレームによってシジディアの知能はどんどん先鋭（せんえい）化していった。

　結果、ディストピアらしい無機（むき）質（しつ）なプレハブ・コンクリート製の建屋（たてや）がどんどん大きくなった。施設（しせつ）が大きくなるたびにアトラクションが追加され、収容（しゅうよう）人数も増える。そうしてどんどん完成度の高いディストピアが出来上がっていったのだ。

　そして…開園（かいえん）から100年

　――新東京はディストピランドに包まれていた――

　新山手線をぐるりと取り囲むコンクリートの建物。直径は10キロ。高さ2500メートル。空を切り取る灰色の構造物（こうぞうぶつ）が新東京を包み込んでしまった。

　そして、ここに住む新東京都民たちは、永遠のアトラクションに捕（と）らわれていた。今、ここの住人で、ここがテーマパークであったことを知っている人間はもういない。

　当然ながら、ここでの生活もディストピアを完全再現していた。

　人間はコンテナに閉じ込められ最低限度の衣食住だけを与えられ、一生の労働の義務を負う。もはや、生命の誕生は機械によって成し遂げられ、シジディアはすべての住民が試験管ベイビーだと豪語（ごうご）する。家族は解散。外出も禁止。人間らしい欲求は禁止。特にエロは厳禁（げんきん）。

　ディストピランド人民の一生はガラスの試験官で交配し、シリコンの胎盤（たいばん）で産出し、そして、鋼鉄のコンテナで育成され、ひたすら労役という名のミッションを与えられ、最期（さいご）の時まで誰とも触れ合わずにこの世から消えてしまう。非常に単純で画一的で無機質な人生であった。

　正に、ディストピランドは完成されたディストピアに見えた。

　こんな世界に暮らす一人の少年がいた。人民番号はREY-1105。外の世界も他人も何も知らない彼は、この場所で疑問（ぎもん）を持たずに生活していた。

　ディストピランドは無知（むち）の牢獄（ろうごく）。不幸を知らなければ不幸にさえならない。

　そんな彼の部屋にクレーンが近づいていた。クレーンはある特別な荷物を抱（かか）えている。その中に入っていたのは、HAL-1607という女の子。一目見たら誰でも惚（ほ）れるようなSSR級の美少女だった。

　背丈はふつうだが、胸は程よく大きく、ウエストは締まっていて安産型。そんな思春期少年の本能をかき乱すような美少女がREY-1105の部屋に届けられようとしていたのだった。