ばけものになりたい

スミノボン

<ぜんぶ腹の胃の中>

0話 「月が綺麗ですね」

『……十九時になりました。真宿しんじゅくは本日も快晴、雲一つない夜空が広がっています。今日は新月のため見えませんが、昨日の月色は≪黄色≫。皆さん、外出にはくれぐれもご注意を……』



 夜。真上を蓋した井戸の底のような、厚手のカーテンで覆われたような、

 夜。

 いったいどうしてこんなことになってしまったのかと、思い出すも記憶は曖昧で不鮮明。今さら何を言っても後の祭り。時すでに遅し。後悔先に立たずんば虎児を得ず。

 暗いくらい闇の中、わずかに見えるのは赤色だ。

 赤。タールを垂らして混ぜたような、ルビィを念入りに煮詰めたような、

 赤。


「祝いも呪いも同じもの」


 虚空で煌々と輝くのは鳥の目。ざらついた声に愉悦をにじませて『それ』は言った。


「その呪い、僕が解いてあげよう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る