第2話
江川さんは死なない。
きっと、死ぬのが嫌なのだろう。
最初は怖がっていたクラスのみんなは、三回目から段々と無関心になっていった。
ふと、後ろの席を見ると、赤い花瓶が倒れていた。
隣の席の四里は、怖いものでも見るかのような目をして、正面に向けて口を開けて青ざめていた。
私の方へ顔を向けてパクパクと口を開閉して、何か言いたそうだった。
四里がやっとのことで指差す方を見ると、そこには赤い傘をさした江川さんが私の目の前にいた。江川さんは白い目で私をギロリと睨んでいた。
雨で濡れたその姿は前と変わらずにあった。
そう、江川さんをたぶん殺したのは私と四里だ。
イケメンだった高藤君の近所に、突然引っ越してきたお金持ちの江川さんは、高藤君とすぐに仲が良くなった。それを知った私たちは、陰湿ないじめをしてから、本当にこの世から遠ざけてしまった。
大雨の中。不良たちに頼んで暴行したあげく赤い傘と共に埋めたはず。
生きたままお寺のお墓の中に。
これで、死ぬだろうと私と四里は思った。
だが、間違いだったのだろうか?
泣きながら見当違いな笑い声を発した私と四里の席には、いつの間にかそれぞれ赤い花瓶が置かれていた。
ああ。そういえば、昨日の利根川で溺れて亡くなった人は三人だった。
いない席 主道 学 @etoo
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