第28話 マリアの部屋

「ほら、せっかく私が助けたんだから早く二階に上がりなさいよ」


手のひらを上にして、手を下から上に上下させ、私を煽る。


「わ、わかってるわよ。とりあえず、さっきはありがとう...」


私は詰まり気味に返事をする。なぜ感謝の言葉を述べたのかわからないが一応助けてもらったのは事実だ。


私は、気持ちのこもっていない「ありがとう」を言った。


私はまたさっきと同じように一段一段丁寧に上がる。


そして、踊り場まで上がり、恐る恐る死角を覗く。


「はぁ、よかった...」


階段に誰もいないことを確認して私は安堵する。


また一段一段上がる。


そしてようやく二階に到着。


ゆっくりと顔を覗かせると、長い廊下が広がっていて、人の気配は全くなかった。


そして私は順調に三階まで来れた。


一歩一歩確実に。ここで見つかると私も、サルバドールにも危険が伴う。


コップに並々注がれた水を運ぶように丁寧に、丁寧に。


そして私は階段から1番近い部屋の扉の前に立つ。


扉の上には「マリア」と分かりやすく書かれていた。


ミミックの言葉を信じられず、私は一度警戒しながらノックをする。


数秒経ち、返事がないことを確認する。


私はゆっくりとドアノブに鍵を差し込み、手を回す。


カチャ


ドアノブの中で鍵が噛み合う音がした。


扉が開いた。


私はまたもやゆっくりとドアノブを回し、扉を開ける。


部屋の中にはもちろん誰もいなかった。


広々とした空間で、女の子らしい壁紙やベッド。入り口から部屋の隅々まで引かれたカーペット。その感触はフカフカで一目でこの家の財力が伺える。


見たことのない高価そうな見た目の絵や置物、不自然なぐらいに等間隔に置かれたぬいぐるみたち。


綺麗すぎてこの部屋からは温かみや心が感じられない。


何より庶民の私からしたら、部屋にいるだけで落ち着かなく、なんだか寂しい気持ちにもなる。


お金持ちもあまりいいものじゃないのかな。私は心の中で痛感した。そこには嫉妬や悔しさなんて微塵も無かった気がする。


「この部屋からマルクの写真を持ってくるんだっけ」


私はミッションの再確認をし、とりあえず部屋を見回す。


特に見当たらないので手当たり次第に引き出しを開けていく。


私は目についた3段式の引き出しを開けていく。


上段には一切の狂いもなく畳まれた綺麗な洋服がずらりと並んでいる。


あの歳にしては高価すぎる洋服だった。


中段には本や雑貨、小物などが今までとは違い、割と疎らに置かれていた。


やっとここで少し人間味のある景色を見ることができた。


この部屋に入ってから、少し酔ってきていた私をこの細々とした物たちが癒してくれた。


そして下段。


もう何分もこの部屋にいて、檻から出ていると言う緊張感も薄れてきていたので、私は少々荒々しく引いた。


そこには、あのたくさんの洋服が入るぐらいの広い引き出しに溢れんばかりのマルクの写真が乱雑に入っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る