第42話 ロード・シュタイン
だが、通信機から叫んだ声に反応はない。
(……ロード・シュタイン。この領地を治める伯爵。……さすがに見え透いた手には乗ってこないか。仕方ない、プランAを放棄し、プランBに以降)
プランBに以降しようと考えていたら通信機越しに男の声が割り込んで来た。それも、『いかにも貴族でござい』といったような口調の男であった。
「私は、ロード・シュタイン。君が暴れん坊のお嬢さんか。この領地を預かる聖王国の伯爵にして、いずれは世界を統べる者。その私に拝謁できる栄光に浴して死ぬが良い」
従属国の伯爵風情が世界を統べるとは大きく出たものだ。だが、そんな自信過剰な奴だからこうやって挑発にのって現れたのであろう。
「勇敢なゲリラのお嬢さん、所属と雇い主の名を名乗れ。君は駒としては使えそうだ。私の元で働くというのなら、現在の報酬の倍、いや、十倍払うと約束しよう。フフッ、どうだ悪くない条件だろう?」
「あいにくだけど、あんたのような外道のもとで働く気はないわ。お断りよ」
「交渉決裂。まあ、雇い主の検討は付いている。君をけしかけたのは……聖王国の野心家、ラズバーン・ザイエン。……正解かな? フフッ……やはりそうか」
(……はっ? ダレそいつ。マジでしらないんですけど……)
そうは思ったが、ここは話に乗ることにした。私は「ニヤリ」と意味ありげに笑い、さも、ナントカ・カントカという奴の関係者であるような風に装う。
「遠からずあの男には誅を下そうと思っていたのだ。君を殺し、その首を斬り落とし、プレゼントとして贈ろう。奴の慌てふためく顔が目に思い浮かぶようだ。フフッ……」
私はダッと地面を蹴り、ロード・シュタインの駆る機体の脚部を薙ぐ。
「……当たると思ったかい。残念だったね。その程度の機動力、フラタニティフレームを採用した第六世代機、流麗なる機兵。――ソルダートに追随することは不可能と知り給え」
一気に距離を詰め、確実に当たるように剣を振った。なのに、剣は空を斬るだけで掠ることすらできなかった。
(……この男の言うことを信じるのは癪だけど、この機体が第五世代機とは全く違うポテンシャルを秘めているというのは事実……。侮れる相手ではないわね)
「リュー。あの機体の弱点を」
『小娘、すまネェ。この機兵、我のデータには存在しない。……つまり、聖王国の新型機。……一般には配備されていない、試作機といったとこだろう』
基本的に試作機は、量産機よりも堅牢かつ高性能。理由は単純、デモンストレーション用の機体だからだ。採用される材質も一般に流通する機体よりも、より良い物が使われているコスト度外視の機体。
(つまり、一言でいうなら、コイツは――強い)
(……ここは一旦、後退。遮蔽物の多い場所に移動した方が)
私のそんな考えを読み取ったかのように告げる。
「フッ、隠れんぼをご所望かな。構わないよ。どこへでも、逃げると良い。ただし、君が隠れている間に、一人ずつこの子供たちを潰すけど、構わないよね?」
……これは、脅しとして成立していない。自分の領地の民を人質にして、私が出てくるとでも? ふぅ…………。落ち着け。これは単なる脅し。
「私としても本意ではないのだが、君に私の言葉を信じて貰うには、まず目の前で一人殺して見せた方が良さそうだ。そこの君、ちょっと殺されてみてくれないかな?」
――脅しではない。ソルダートの巨大な足が、男の子を……。
(……ふぅ、間一髪)
寸前のところで救助に成功するのであった。
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