第46話「妹のマッサージ」
「お兄ちゃん! 私にマッサージお願いします!」
「なんだよ唐突に……肩が凝ったなら湿布を貼っておけばいいだろ?」
「この前お兄ちゃんに奢りましたからね、そのリターンですよ」
俺は茜に聞かざるを得ない。
「一応聞いておくが下心はないんだよな?」
茜は嗜虐的な笑みを浮かべた、怖い。
「あるに決まってるじゃないですか! お兄ちゃんに作った貸しは重いものですからね!」
ラーメン一杯に随分と重い利子が付いたものだ……とはいえ断りづらい物がある。俺は貸し借りにシビアなのでここで借りを返しておけば後々気楽になれる。
「分かったよ、肩をもむくらいでいいな?」
「そうですね、肩
茜は肩をはだけてコンコンと叩く。ここを揉めという意味なのだろう。
「なんで肩を出したの? 服の上からでも……」
「お兄ちゃんに私の美肌に直で触って頂こうと思いまして。このくらいでR18にはならないでしょう? 大きめに見積もってもPG12くらいですよ?」
最近の子供は情報に触れるのが早いからこのくらい全年齢対象かもしれない。それを決めるのは世間一般の目だ。ただし、兄妹でこういったことをするのは普通なのかどうかについては意見が分かれるだろう。茜はこのくらいセーフと考えているようだ。
「じゃあ揉むぞ」
「はいどうぞ!」
茜の柔らかい肌に指を押しつける。妙に色っぽい声を上げる茜だが、肩フェチでもないのならそんな声を上げないだろうというような声を上げている。
「あ~……いい感じですねえ、お兄ちゃん、もうちょっと強くお願いします」
「はいはい」
俺は指に力を入れる。柔らかい感触が伝わってきて意識をしてしまう。それを振り払うように力を入れて深く考えないようにする。茜がなぜこんなお願いをしたのかについても深くは考えない。十分ほどマッサージをしたところで茜から満足いったと言われた。
「お兄ちゃん、いい感じですね……
「……」
「なんですか?」
「いや、なんだか年寄り臭いなって思って」
いや、俺の方が年長なのでその発言はブーメランになるのは分かっているのだが、普通高校生が整骨院の真似事はしないだろう。
「せめて夫婦みたいだと言って欲しいですね」
茜の機嫌を損ねたようだ。思ったことをそのまま言うのはよくないな。茜は少し服をまくり上げて腰の部分だけを出してソファに寝転ぶ、俺はその腰に手をあてグイグイと押す。
「ふぁ……あぁ……いいですねえ……お兄ちゃんをいいように使うのは気持ちいいですね」
「人使いの荒いことで……」
「兄は妹の頼みを聞くものでしょう?」
「偏ったソースを参考にするのはやめような?」
どこでそんな知恵を得たのかは知らないが、俺は妹に真っ当に育って欲しい。俺も大概ロクな性格をしていないので妹にとやかく言える立場では無いのだろうと思うのだが。
そうして腰をしばらく揉んだところで満足したのか「もういいです、またお願いしますね!」と言って終了した。茜はその後しばらく顔を赤くしていたのだが、恥ずかしいなら始めから頼むなよと言いたかった。
「お兄ちゃんはなかなかマッサージが上手なんですね」
マッサージが目的だったのかには疑問の余地があるが、茜が満足したなら構わないか。俺の手には柔らかな感触が残っている。深く考えると思考がよくない方向へ向きそうなので深く考えるのはやめた。
「マッサージなんてほぼ未経験なんだがな……」
とはいえ茜もマッサージなんて経験があるのかも怪しいので上手か下手かの区別がつくとも思えないのではあるが……
「お兄ちゃん! 是非とも今度はもっと過激なマッサージをお願いしたいのですが構いませんか?」
「無理です、これ以上やると……なんでもない」
茜がニヤニヤしながら俺の発言の揚げ足を取る。
「これ以上やると……なんなんですかねえ? お兄ちゃんもやっぱり……」
「はいはい! この話はおしまい! あんまり不純なことを考えるんじゃない!」
俺は呆れながらもインスタントコーヒーを一杯淹れて飲んだ。独特の苦さが心を落ち着けてくれる。
「お兄ちゃん、私にも一杯」
「ドリップじゃないけどいいのか?」
「ええ、お兄ちゃんとおそろいがいいですね」
俺は茜のカップに一杯淹れて二人でのんびりとコーヒーを飲んだ。ついぞ茜の俺のマッサージに対する反応や、心の内については聞けなかった。
俺はその晩、手に残る感触でなかなか眠れなかったのだが、さらに隣の部屋から艶めかしい声が響いてきて、次の日の朝が辛いと悶々とすることになった。
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