第34話「妹と兄の料理」
「お兄ちゃんの料理が食べてみたいです!」
「別に作るくらい構わないが珍しいな?」
コイツは自分で作る方が好きなタイプかと思っていた。じゃあ今晩は俺が作るとするか。
「よし、じゃあ今晩は俺が作るよ」
しかし茜はそれには反対した。
「いえ、お昼ご飯をお願いします。夕食は私が真面目に作ったものを食べて頂きたいので」
どうやら譲れない一線というものがあるらしい。今はまだ朝だ、昼ご飯まで準備をする時間は十分にある。
「じゃあ昼はチキンライスでいいか? そのくらいなら作れるよ」
「いいですよ! お兄ちゃんの手料理なら卵かけご飯でも認めちゃいます!」
卵かけご飯が料理であるかは議論の余地があるところだが、俺の作れる範囲で一番料理らしいものを提案しておいてよかった。さすがにシリアルに牛乳をかけただけというのでは不興を買いそうだ。
不足分の材料があるかチェックするために冷蔵庫を開けると普段あまり見ない野菜室が非常に充実していた。これが料理を作る人の冷蔵庫か……
俺なら何でも食べられればいいという考えなので必要最低限のものしか入れていなかった冷蔵庫だったが、短期間にすっかりと文明化が進んだようだ。ソーセージと玉ねぎ、ピーマン、そしてもちろんケチャップも在庫がある。
「お兄ちゃん! ご飯はちゃんと炊いてあるのでじゃんじゃん使ってください!」
どうやら炊飯器まで準備済みらしい。俺が断わらないことを見越してのことだろう。先が読めるというか、お願いの仕方を心得ているというところだろう。
「じゃあ早速作るよ、いいか?」
「はい! 食べる準備は完璧ですよ!」
そんなわけで俺の料理が始まった。ピーマンと玉ねぎを細かく切り、ソーセージを輪切りにして炒めておく。玉ねぎの色が変わったら取りだしてご飯を空のフライパンに投入する。
ご飯を炒めて少ししてから素材をまとめて投入してケチャップをかける。お手軽な料理だとは思うがこれでも俺が作っているものの中では手がかかっている方だ。面倒なときはカロリーブロックですませてしまうからな。
出来上がったチキンライスを二皿に取り分けて完成、このくらいは失敗せずに作れる。ただし余裕がないときは野菜なしでソーセージとご飯を炒めてチキンライスと言い張るので手がかかっている。なお、現在作ったものにもチキン要素は無いのでチキンライスなのかどうかは不明だ。ケチャップライスというのかもしれないが、この手のものをまとめてチキンライスと呼んでも罰は当たらないだろう。
「おにーちゃん! できましたか?」
「ああ、できたよ」
完成したチキンライスをテーブルに置いた。
「「いただきます」」
「はむっ! これは美味しいですね!」
「茜が作った方が美味しいとは思うんだがな……」
料理に力を入れている妹には勝てない。所詮俺は料理ガチ勢ではないのだ。
「お兄ちゃんが作ったから美味しいんですよ! 私が自分で作ったものを自分で食べても味気ないだけでしょう? お兄ちゃんと一緒にお兄ちゃんが作ったものを食べることに意味があるんですよ!」
「そういうものかねえ……」
俺は料理に詳しくないので茜の言っていることの意味はよく分からない。しかし幸せそうに食べている茜の顔を見ただけで俺は十分に満たされてしまう。
誰かのために作る料理ってのも悪くないな……もう少しだけ勉強しようかな……
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